目黒通りの「ジェオグラフィカ」も地下から三階まである大きなショップで、二階にはカフェ、アンィーク美術の図書閲覧室、一室では何か講座を開いている。広いフロアはすてきな洋家具でいっぱいだが、私の注目は、刻み煙草やビスケット、絆創膏などの古いブリキ缶だ。50年代ころだろうか、ロゴを印刷した昔のデザインがたまらない。これをペン立てにしたらしゃれている。しかし、ほんの小さな蓋付き缶が一個7,000~15,000円。女性店員によると最近、缶はコレクターズアイテムで値段が高いそうだ。「これ、いいよなあ」と眺める私に、同行の女性編集者は「私にはその良さは全然わかりません」とあきれた表情だ。
確かにアンティークに限らず、鉄道模型やミニカーはまだしも、ブリキおもちゃ、グリコのおまけ、駅弁包装紙、琺瑯看板、マンホール蓋の写真など「収集癖」は男だけのもので、女性のコレクターは聞いたことがない。女性は役に立たないものに興味はなく、まして大枚をはたくなど考えられないのだろう。男はロマンチストなのだ。
そのブリキ缶はあきらめ、スコッチウイスキー「グレンモレンジー」の水差しをゲット。これに花でも飾る? とんでもない。置いて観賞する。
アンティークは、希少価値も、実用価値も、美術価値も、転売すれば高価になる価値も全く関係ない「その人にとって良ければそれでよい」だけのもので、値段はあってないのだ。
それは「愛」だ。好きな人への愛は本人にしか判らなく、どうしても手に入れたいものだ。男は無償の「愛」を求めるのだ。