2016年1月1日号「街へ出よう」より
冬、寄れば鍋でもつつくか、となる。しかしちょっと待て。
鍋だからと言って、大雑把に具を投げ込めばいいっていうものではない。
具素材の味を引き立てるには、手順もあれば火加減だってある。で、正統派は、一人で料理が楽しめる小鍋立に向かうことになる。
ねぎま鍋、どじょう鍋、あさり鍋、鶏すき鍋、ふぐ鍋といろいろあれども、まずは、桜鍋で精をつけて、「街」へ出よう!
冬の男ひとり鍋
~小鍋立、今宵も一献、一献、また一献~
文・太田和彦
鍋料理の手順や火加減をおろそかにしてはいけない
寒い冬。数人集まって酒となれば「鍋でもとるか」。しかしこれはたいてい失敗する。
注文するとガス台にどんと大鍋を置き、山盛りの具が届いて、さあどうぞとなる。鍋といえども料理、手順も火加減もある。そこで登場する鍋奉行。「まてまて、順番がある」と仕切り「さあこれ食べていいぞ、早く食え、あ、それまだ入れちゃダメ」とやかましく、素直に従っていてもやがて酒と話に関心が移り、忘れられた奉行は機嫌が悪くなる。
しかし彼のしていることは正しいのだ。鍋は具の煮え加減が大切で、ワンラウンドごとにきれいに鍋をさらい、おつゆだけに戻してツーラウンド。これを繰り返すのが肝要で、それゆえ管理者が必要となるのだが、自分の食べたいタイミングに食べられない不満はある。
具は大皿に鯛、タラ、牡蠣、ハマグリ、海老、カニ、豆腐、白滝、椎茸、えのき茸、葱、春菊、白菜などなど山盛りの「寄せ鍋」が豪華に見えていちばんつまらない。あれこれ混ざり合った味は結局なにを食べたかわからず、最後の雑炊もぼんやりした味だ。
女性はチマチマいろんなものがいっぱいあるのを好むが、男はきっぱり一品をとことん味わい尽くすのを好む。「かき鍋」は牡蠣と三つ葉のみ。「はまぐり鍋」はハマグリと水菜のみ。「常夜鍋」は豚とほうれん草のみ。つまり主役と青物の組み合わせを小鍋で煮ながら楽しむ。もう一品入れるのなら豆腐。鍋の具は二種、多くも三種までが限度だ。主役の殿様は一人、青物は腰元、豆腐は出汁を吸う家老役だ。