2014年7月1日号「街へ出よう」より
地域に根ざした商店街には、路上で買い物ができてしまう気軽さ、
何度も前を往復して品定めができる気安さがある。
夕餉の一品をお店のご主人やおかみさんと会話しながら選ぶ楽しみもある。
今もなお、昭和の面影を残した下町情緒あふれる商店街、
そこには日常を一生懸命生きる人々との出会いがあり、憩いの場がある。
商店街を歩く
~日々の営みがいとおしくなる場所~
文・太田和彦
東京一長い商店街〝戸越銀座商店街〟
星野博美さんのエッセイ『戸越銀座でつかまえて』(朝日新聞出版)は、ひとりの女性として結婚もせず自由に生きることを通してきた著者が、おしゃれな子連れマダムがカフェでおしゃべりしている吉祥寺から、故郷戸越銀座の実家に41才で帰ってくるところから始よる。10代に「いつかここを出る」と決意して実行し、数十年を経て戻って、再び住み始めたのだが初めはおおいにとまどった。
例えば歩いていて挨拶すべき人が大勢いること。それは「一、顔に見覚えはあるが、知らない人。二、顔と名前は一致するが、親の知りあいというだけで自分は直接知らない人。三、親も自分もよく知っていて、仲のいい人。四、よく知っているが、あまり良好な関係とはいえない人。五、よく知っていて関係も良好だが、話の長い人。」と分類され、対応「無反応」「なんとなくスルー」「曖昧な会釈」「確固たる会釈」「はっきり挨拶」「積極的に会話」「できれば回避」を瞬時に選択する。よた、商店街の雑踏に父や母の姿を見かけるととっさに電柱に隠れたり、コンビニに入ったりして通り過ざるのを待つ。
それはアパートを出れば誰一人自分を知る人のない解放感とは逆の世界だった。さらにトイレットペーパー一つを買うのにもあれこれ見ているうち”東京一長い商店街” をいつのまにか全往復している自分に気付く。
商店街は親密なつながりと必要なものが全て揃う場所
〈好きですこの街とごしぎんざ〉のアーチが連なる戸越銀座商店街は全長1.3㎞。車の通らない道の両側は、商店また商店が約四百軒。青果、肉、魚、酒、お茶、惣菜、漬物、パンなど食品のみならず、荒物、金物、電器、履物、生花、薬局、文具、本、写真、家具、不動産、リサイクルショップ、美容室、クリーニンダ、医院、進学塾、お稽古教室などの続くのが生活の町であることを示す。多いのは整体、エステ、接骨で、全身疲労・ほぐし・肩・腰・足ツボなど60分2980円は安い。靴やバッグのリフォーム、洋服お直しもとても多く、体も靴も衣服もすべて修理して使うのはたいへん結構。脇筋にちょっと遠慮気味に質屋があるのも納得だ。
中華食堂や蕎麦屋。寿司処のセットメニューは〈なぎさ1350円・わかしお1850円・しおさい2400円・さざなみ2900円〉これなら気軽に入れるな。魚屋の店頭で焼いているいろんな焼魚がうまそうだ。歓楽街ではないので居酒屋や酒場は案外ない。殆どは二階が住まいらしく晴天に布団を干している。上に猫もいる。