和歌をたしなむ主の気品に満ちた名園
みごとに手入れされた広大な青芝、広々とした泉池、浮かぶ蓬莱島、 潅木一本まで形を整えた植え込み、要所を引き締める岩、見上げる高さの石の春日灯籠、悠々と亭や茶屋が点在する庭は雄大だ。
奥まった「蜘道(さゝがにのみち)」 は六義園八十八境八十七。
わがせこが来べきよひなりささがにの蜘蛛のふるまいかねてしるしも
蜘蛛の糸が細くとも切れないよう に、和歌の道が永遠に続くことを 祈って「蜘道」と命名された。歌を 詠んだ衣通姫は日本書紀に「美しさ がその衣を通して輝く」と描かれる。 このあたりは自然のままを残して、里山を歩くようだ。小高い築山上の 「つつじ茶屋」は、なかなか太いものがないという躑躅材で作られ、いかにも硬そうにくねくねと曲がる柱が風流だ。
渡月橋の対岸に至り最も眺望が開けた。眼前の庭園先にビルが一つも 見えなく青空ばかりが広がるのは、 都心において奇跡的な贅沢な眺めではないだろうか。
和歌の教養に裏打ちされた武家の気品に満ちた大名庭園だった。