文=岡田惠和
2012年4月1日号 PERSON IN STYLE《美しいとき》
スクリーンでは市川崑や増村保造監督作品などの乾いた空気を感じさせるモダニズムというべき作風のなかでどこか屈折した女の微妙な心のひだを演じてみせ、その後のテレビドラマでは、芯は強いながらもつつましやかな女性像を演じ匂い立つようなしっとりとした美しさを見せた若尾文子さん。年輪を重ねてもその艶やかさが褪せない声。そしてセリフの行間に表情をもたせることができる稀有な女優。NHKの連続テレビ小説「おひさま」でも証明ずみです。今回、若尾文子さんの魅力を語るのは「おひさま」の脚本家・岡田惠和さん。若尾文子さんへの思いがしたためられた、すてきなラブレターです。
撮影=渞 忠之 撮影協力:赤坂 口悦
素敵な女性の隣にいる誇らしさと照れくささ、そしてドキドキ
若尾文子さんと初めてお会いしたのは2010年のこと。NHK「おひさま」で、ヒロイン陽子の現代の役、そしてナレーションをお願いするためでした。
もちろん、その場で初めてお願いするわけではなく、一応OKの方向でのお返事をいただいているわけではありお会いして、詳しい役についての説明、こちらの熱意などをお伝えする場です。
女優さんに会って話をすることにはある程度慣れてはいますし、最近ごく普通に「オーラ」があるとか、ないとかいう「オーラ」なるものにも鈍感な方で、特別緊張することもないのですが、その日だけは違いました。
都内のホテルのラウンジに、若尾さんがいらした瞬間(とても素敵な洋装でした、まるでヘプバーンみたい)頭が真っ白になりました。
何を喋ったのか、喋れなかったのか、よく覚えていません。
いまだに思い出せません。
覚えているのは、周囲の人の視線を感じたときの感覚。
なんだか誇らしかった。若尾さんと会話をしていることが。
あんな気持ちは初めてだと思います。
こんなこと書いて、失礼になってしまうのかもしれませんが、それはもう、明らかに「恋」なんだと思います。
大女優と一緒にいるからとか、そういうことではなく、単純に素敵な女性の隣にいる誇らしさと照れくささ、そしてドキドキ。
「恋」なんだと思いました。
某携帯電話のCMでは、松田翔太さんとのカップルの設定を演じられていますが、あれも納得。若尾さんなら、それがなんだか、ありえるんじゃないかと思ってしまいます。