脚本家に最高の幸せをもたらしてくれた女優
そして時は過ぎます。
「わが家の歴史」のオンエアはまだもう少し先ですが、脚本家の僕は一足お先に完成品を観ています。富司さん演じるマキさんは、まさに僕の想像していた通りのマキさんでした。終戦直後の博多の街かどに、ちょこんと座っている姿のなんとかわいいこと。貧乏暮らしの中でも変わることのない、その凜とした美しさ。そして普段は寡黙なのに、いざという時に家族を守って口から出る啖呵の格好良さ。やはり富司さん以外にこの役は演じられる人はいません。絶対いません。脚本家にとって一番の幸せは、大好きな役者さんが、自分の思った通りに、いや、それ以上に、自分の作った役を魅力的に演じてくれること。
ありがとございます、富司さん、僕は幸せ者です。
市川崑監督の2006年版『犬神家の一族』に犬神松子役で出演した富司さん。実はこの映画には三谷さんもホテルの主人役で俳優として出演していたが、残念ながらからみはなかった。撮影協力:ビストロ・ダルブル/分土火
ふじ すみこ
女優。1963 年に藤 純子の芸名で映画『八州遊侠伝・男の盃』でデビュー。68 年『緋牡丹博徒』で初主演。〝緋牡丹のお竜〟が大人気となりシリーズ化され当代一の人気女優となった。66 年のNHK 大河ドラマ「源義経」で共演した尾上菊之助(現・7 代目尾上菊五郎)との結婚を期に引退を表明、72 年の引退映画『関東緋桜一家』には東映のオールスターが結集した。74 年ワイドショー「3 時のあなた」の司会者として寺島純子の名で芸能界に復帰。89 年の映画『あ・うん』から現在の芸名を名乗り、その後映画、テレビ、舞台にと幅広く活躍中。映画『人生劇場・飛車角と吉良常』『ふたり』『あ、春』『おもちゃ』(日刊スポーツ映画大賞主演女優賞、ブルーリボン賞、キネマ旬報、報知映画賞の助演女優賞)『解夏』『待合室』『寝ずの番』『フラガール』(ブルーリボン賞、日刊スポーツ映画大賞の助演女優賞)『愛の流刑地』『明日への遺言』『空気人形』、テレビ「大坂城の女」「五辨の椿」「振袖御殿」「寒橋」「勇者は語らず」「翔ぶが如く」「琉球の風」「北条時宗」「結婚泥棒」「天花」「眉山」「CHANGE」「そうか、もう君はいないのか」「天地人」、舞台『ゆずり葉』『向島物語』『祇園の姉妹』『花のうさぎ屋』『元禄港歌』『近松心中物語』『マッチ売りの少女』など多数の出演作がある。2021年は、日本でも活躍する韓国の女優・シム・ウンギョンと、椿が咲き誇る一軒の家に住む祖母と孫を演じた映画『椿の庭』に出演。
みたに こうき
脚本家。1961 年7 月8 日、東京生まれ。日本大学芸術学部演劇学科卒業。在学中の83 年に劇団「東京サンシャインボーイズ」を旗揚げ。94 年『東京サンシャインボーイズの<罠>』の公演をもって30 年の充電期間に入った。以後、脚本家としてテレビドラマ、舞台、映画と多方面で執筆活動中。舞台『コンフィダント・絆』『グッドナイト スリイプタイト』『TALK LIKESINGING』、映画『THE 有頂天ホテル』『ザ・マジックアワー』、テレビドラマ「王様のレストラン」「新選組!」「警部補・古畑任三郎」など多数の作品がある。2022年1月からは、NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の作・脚本を務める。