四方田犬彦さんは、映画を論じる人物として、岡田茉莉子さんがもっとも信頼を寄せるお一人。シンポジウムや上映会、インタビューなどで幾度となく顔を合わせている間柄だが、「岡田さんと一緒に表紙に登場するなんで大変なことになっちゃった」と、いつもとは勝手が違う様子の四方田さん。それは、岡田茉莉子という映画人を、また映画に対する岡田さんの考え方を四方田さんがレスペクトしているからに他ならないだろう。松竹にいたときは日本映画史のトップだったのが、世界で一番新しい映画を担う吉田喜重監督作品のヒロインになり、世界水準になったと語る四方田さんの言葉に、女優・岡田茉莉子の大きさを再認識させられた。
撮影:渞忠之
おかだ まりこ
女優。東京生まれ。1951年に東宝の第三期ニューフェースとして東宝演技研究所に入り、入所後20日足らずで成瀬巳喜男監督『舞姫』のクランク・イン、女優デビューを果たす。57年に松竹と専属契約を結び62年には「岡田茉莉子映画出演100本記念作品」として主演映画『秋津温泉』を自らプロデュースし毎日映画コンクール女優主演賞はじめ多くの賞に輝く。監督の吉田喜重とその後結婚、66年に現代映画社を設立し吉田作品で多くのヒロインを務める。映画『宮本武蔵』『芸者小夏』『浮雲』『あすなろ物語』『流れる』『悪女の季節』『秋日和』『女舞』『熱愛者』(企画も担当)『愛情の系譜』『今年の恋』『愛染かつら』『秋刀魚の味』「香華』『水で書かれた物語』『女のみづうみ』『妻二人』『不信のとき』『さらば夏の光』『エロス+虐殺』『煉獄エロイカ』『告白的女優論』『人間の証明』『赤穂城断絶』『序の舞』『タンポポ』『鏡の女たち』『エリ・エリ・レマ・サバクタニ』、テレビ「三姉妹」「助左衛門四代記」「坊っちゃんと私」「徳川秀忠の妻」「花のいのち」「面影」「わが父北斎」「女徳」「霧の旗」「楡家の人びと」「美しさと哀しみと」「朱鷺の墓」「滝の白糸」「元禄太平記」「京まんだら」「女系家族」「ダウンタウン物語」「真田太平記」「犬神家の一族」、舞台『細雪』『宴』『三国志』『カリーライス誕生J『不信のとき』『日本の騎士』『藤十郎の恋』『雁の寺』『春琴抄』『西鶴一代女』『斜陽』『樽屋おせん物語』『八百屋お七変化』『おさん心中暦歌』『花の生涯』『修羅の旅して』『反逆児』『午後の遺言状』など多数の出演作がある。
よもた いぬひこ
映画史・比較文化学者。1953年大阪生まれ。東京大学で宗教学を、同大学院で比較文学を専攻し、博士課程を終える。建国大学(ソウル)、コロンビア大学、ボローニャ大学などで客員教授・客員研究員を勤め、現在は明治学院大学教授として映画学の教鞭を執っている。『月島物語』で斎藤緑雨文学賞を、『モロッコ流請』で伊藤整文学賞を、『映画史への招待』でサントリー文学賞を、『日本マラーノ文学』『翻訳の精神』で桑原武夫学芸賞を受ける。近著に『蒐集行為としての芸術』(現代思潮新社)、『『七人の侍』と現代』(岩波書店)、『ポスト満州 映画論』(人文書院)などがあり、岩波書店より刊行中のシリーズ『日本映画は生きている』全8巻の編集を行なう。