22.10.21 update

館林市にある開館10周年の企業文化スポット「製粉ミュージアム」を訪ねてみた 

 群馬県の南東部にあたる館林市は、関東地方のほぼ中央に位置する。江戸時代には、館林藩から将軍家へ小麦が献上されるなど、小麦栽培が盛んな地である。ここに日清製粉(現・日清製粉グループ本社)が、1900年(明治33)に館林製粉として、正田貞一郎氏らによって創業されたのは必然だったのだろう。その創業の地に、「製粉ミュージアム」が誕生したのが110年余りを経た2012年(平成24)11月12日、間もなく開館10周年を迎える。

▲写真 2013年にグッドデザイン賞を受賞した「製粉ミュージアム」新館の玄関。東武伊勢崎線館林駅に隣接するように建つ。

「製粉ミュージアム」はその名の通り、製粉(小麦・小麦粉)をテーマにした企業ミュージアム。瀟洒な洋風の本館は、創業時の工場事務所として建設された建物だが、「製粉ミュージアム」の開館に合わせて免震設備を施し、企業文化遺産として保存されている。内部には創業者ゆかりの品々が展示され、会社の歴史や伝統が紹介されている。新館は、小麦から小麦粉ができる工程や製粉機械も陳列され、小麦・小麦粉に関する情報をわかりやすく、楽しみながら学べるように工夫されている。日本庭園は、芝や木々の手入れが行き届いており、桜やツツジ、紅葉など四季折々にうつろう姿をみせてくれる。鳥のさえずりも心地よく、来場者には憩いの場となっている。

▲写真 「エントランス」から広がる手入れの行き届いた日本庭園が迎えてくれる。

 市内の小学・中学校の課外授業や、小麦粉を使った粘土教室など家族で小麦について学ぶことができることで、地域の人々に親しまれ、この10年で館林市を代表する見学施設となってきた。「小学校4年生の教科書副読本に当社創業者の正田貞一郎翁が名誉市民第一号として掲載されています。本館には正田貞一郎の創業時の写真や年表などの展示もありますが、わかりやすく伝えるため紙芝居を作りました」と町田英樹館長。また、新入社員研修や、機械メーカー、製パン業者などの社員研修や、教員の民間企業研修などに使われるなど、研修施設としての役割も果たしている。

▲写真 本館では、日本の成長とともに、歩んできた日清製粉の歴史と、歴代経営者の製粉にかけた想いが伝わる資料や文化的な遺産が展示されている。

 2020年1月には累計来館者数10万人を突破、その直後にコロナ禍に見舞われ、7カ月間休館を余儀なくされた。現在は、感染対策も行き届き、ワークショップを簡略化させたり入館者の人数制限等、徹底したウイズコロナの態勢で来館者を迎えている。

▲写真 新館では小麦粉をつくる機械化された工程や製粉技術、小麦、小麦粉に関する様々なデータ、豆知識を通して、楽しく学べる展示スペースになっている。

 折しも10月28日は「群馬県民の日」で10月28日(金)と29日(土)の2日間、「製粉ミュージアム」では、無料開放してイベントを開催する。イベントは3年ぶりで、感染対策のため「完全Web 予約制」だが、小麦粉に関するクイズラリーや、日本庭園でベーゴマ体験、ARゲームが楽しめる。

 ところで、館林市には大小さまざまな沼があることから、「里山」ならぬ「里沼」と命名。2019年には、「多々良沼(たたらぬま)」「城沼(じょうぬま)」「茂林寺沼(もりんじぬま)」などの沼とその周辺の寺社や関連文化施設が「里沼(SATO-NUMA)─「祈り」「実り」「守り」の沼が磨き上げた館林の沼辺(ぬまべ)文化─」として日本遺産に認定された。日本遺産には食文化も入ることから、「過去には、麦畑を見て、製粉ミュージアムで製粉を学んで、うどん専門店でうどんを食すというツアーがあったと聞いている。いままでコロナ禍で控えていたいろいろな企画を、行政等とも協力しながら進めていければと思う」と町田館長。

 企業ミュージアムとして10周年を迎えた「製粉ミュージアム」、食文化への理解と地域貢献を柱に、「学び、遊び、寛ぐ」ミュージアムとして次の10年が楽しみだ。


製粉ミュージアム

所在地:群馬県館林市栄町6-1(東武伊勢崎線「館林駅」西口下車すぐ)
問い合わせ:0276-71-2000
開館時間、休館日などはホームページをご確認ください。
入館料:大人200円、小中学生100円
HP:https://www.nisshin.com/museum/


 

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