23.06.30 update

ウクライナの若き女流監督が世界に送るメッセージとなった映画『キャロル・オブ・ザ・ベル』、戦時下にクリスマスキャロルを支えに生き抜こうとした家族の絆

 ウクライナを舞台にした『キャロル・オブ・ザ・ベル』が7月7日(金)より公開される。

 世界の黒土地帯の3分の1をもつと言われるほど、肥沃な土地であるウクライナは、古くから周辺諸国から狙われてきた。近代以降、東からはロシア帝国(その後のソ連)、西からはポーランドやドイツ(ドイツ帝国とナチスドイツ)が台頭してきた。ウクライナは幾度も東西の大国間の戦場とされ大きな被害を受けてきたのだ。第一次大戦中に一時独立したこともあったが、間もなくソ連につぶされ、独立を目指して活動していたウクライナ人はシベリアに送られ、処刑されるという痛ましい歴史があった。

 ウクライナは占領者が目まぐるしく変わり、その都度、敵対者とされる民族が迫害された。それまで共存していたウクライナ人、ポーランド人、ユダヤ人が代わるがわる被害者になるのだ。

 物語は1939年1月のポーランド(現ウクライナ、イバノフランコフスク)にあるユダヤ人が住む母屋に借家人として引っ越してきたウクライナ人とポーランド人家族の団欒から始まる。ウクライナの民謡「シェドリック」=「キャロル・オブ・ザ・ベル」は、歌うと幸せが訪れると信じられ、歌の上手なウクライナ人の娘ヤロスラワは皆の前で披露するのだ。

 間もなく、ナチスドイツによる侵攻でポーランド人とユダヤ人の両親は迫害にあい、ウクライナ人の母であり、音楽の先生でもあるソフィアが、この3人の娘たちを守り抜いて必死に生き抜く。窓のカーテンを閉めきり、隠れるように毎日を送るが、ナチスドイツ軍人の厳しい監視は子供たちにも及ぶ。からくり時計に隠れる子供、ネズミに噛まれたことがもとで死に至った子もいる。けれども3人の子供たちも互いに助け合い生き抜こうとしている姿が微笑ましい。決して他のものを陥れようとすることはない。オーデションで選ばれ出演している子供たちは可愛い演技派で、画面も明るくなりその歌声に聴きほれてしまう。

 しかし、なんといっても強く優しいウクライナ人の母親、ソフィアの心情に勝るものはないだろう。ナチスドイツの軍人につらい目に遭わされた過去があっても、ソフィアは、「この子に罪はない」と言って、今度はソ連の急襲によってナチスドイツ軍人の親を失った男の子までも守ろうとするのだ。それこそが人としてのあるべき姿で、平和につながるものではないだろうか。

 本作は長編映画作品2作目の女性監督、オレシア・モルグレッツ=イサイェンコ監督による。2022年2月のロシアによるウクライナの本格的な侵攻が始まる前、18年にこの作品をつくろうと資金集めを始め19年~20年に撮影は行われた。まるで、その後のロシア侵攻を予想していたかのようだが、多くのウクライナ人は、ロシアの攻撃があることはわかっていたようだと、監督はインタビューで語っている。

 戦争こそ人間が生みだした最悪の所業であると人々に訴えかける物語だ。ロシアのウクライナ侵攻をはじめ、平和が脅かされかねない状況は現代の世界に潜んでいる。それを乗り越えられるのは、たとえ民族が違っても、人と人との「思いやり」や「助け合い」、「愛」なのだろう。今も続いているウクライナの戦争の映像を観ると、胸がしめつけられる。離れ離れになった家族が集い、安心して眠れる日が来ることを願わずにはいられない。

『キャロル・オブ・ザ・ベル 家族の絆を奏でる詩(うた)』は、7⽉7⽇(⾦) 新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座、アップリンク吉祥寺ほか全国公開
配給︓ 彩プロ  後援︓ウクライナ⼤使館
(C)MINISTRY OF CULTURE AND INFORMATION POLICY OF UKRAINE, 2020 – STEWOPOL SP.Z.O.O.,
2020

 

映画は死なず

新着記事

  • 2024.04.11
    相模原出身のロックバンド (Alexandros ...

    相模大野駅の列車接近メロディ

  • 2024.04.11
    下町の太陽、庶民派女優といわれながら都会の大人の女...

    150万枚のミリオンセラーを記録

  • 2024.04.09
    一日限りの『男はつらいよ』シネマ・コンサート開催!...

    6月29日(土)開催

  • 2024.04.08
    六本木ヒルズ・東京シティビュー 「創刊50周年記念...

    応募〆切:5月17日(金)

  • 2024.04.05
    俳優座の仲間たちから〝モヤ〟と呼ばれ、映画舞台の両...

    4期生とし養成所に入所

  • 2024.04.05
    本年度読売演劇大賞の大賞受賞後、初となる藤田俊太郎...

    東京公演:4月7日(日)開幕

  • 2024.04.04
    最高に幸せな7日間のラブストーリー『ハピネス』舞台...

    応募〆切:4月22日(月)

  • 2024.04.04
    平塚市美術館「平野杏子展─生きるために描きつづけて...

    応募〆切:4月21日(日)

  • 2024.04.04
    「顔が小さくて、背が高くて、脚が長い。まったく勝ち...

    御三家のハンサム・ガイ

  • 2024.04.03
    【インタビュー】若村麻由美 世界的に注目されるゼレ...

    奇跡のような2作品同時上演

特集 special feature 

わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の  「芸業」

特集 わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の 「芸業...

棟方志功の誤解 文=榎本了壱

VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いなる遺産

特集 VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いな...

「逝ける映画人を偲んで2021-2022」文=米谷紳之介

放浪の画家「山下 清の世界」を今。

特集 放浪の画家「山下 清の世界」を今。

「放浪の虫」の因って来たるところ 文=大竹昭子

「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

特集 「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

「いい顔」と「いい顔」が醸す小津映画の後味 文=米谷紳之介

人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

特集 人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

わが母とともに、祐三のパリへ  文=太田治子

ユーミン、半世紀の音楽旅

特集 ユーミン、半世紀の音楽旅

いつもユーミンが流れていた 文=有吉玉青

没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、展覧会「萩原朔太郎大全」の旅 

特集 没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、...

言葉の素顔とは?「萩原朔太郎大全」の試み。文=萩原朔美

「芸術座」という血統

特集 「芸術座」という血統

シアタークリエへ

喜劇の人 森繁久彌

特集 喜劇の人 森繁久彌

戦後昭和を元気にした<社長シリーズ>と<駅前シリーズ>

映画俳優 三船敏郎

特集 映画俳優 三船敏郎

戦後映画最大のスター〝世界のミフネ〟

「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の流行歌 

昭和歌謡 「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の...

第一弾 天地真理、安達明、久保浩、美樹克彦、あべ静江

故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・木下惠介のこと

特集 故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・...

「つつましく生きる庶民の情感」を映像にした49作品

仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監督の信念

特集 仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監...

「人間の條件」「怪談」「切腹」等全22作の根幹とは

挑戦し続ける劇団四季

特集 挑戦し続ける劇団四季

時代を先取りする日本エンタテインメント界のトップランナー

御存知! 東映時代劇

特集 御存知! 東映時代劇

みんなが拍手を送った勧善懲悪劇 

寅さんがいる風景

特集 寅さんがいる風景

やっぱり庶民のヒーローが懐かしい

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

特集 アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

60年以上にわたる創造の全貌

東京日本橋浜町 明治座

特集 東京日本橋浜町 明治座

江戸薫る 芝居小屋の風情を今に

「花椿」の贈り物

特集 「花椿」の贈り物

リッチにスマートに、そしてモダンに

俳優たちの聖地「帝国劇場」

特集 俳優たちの聖地「帝国劇場」

演劇史に残る数々の名作生んだ百年のロマン 文=山川静夫

秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

特集 秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

役柄と素顔のはざまで

秋山庄太郎ポートレートの美学

特集 秋山庄太郎ポートレートの美学

美しきをより美しく

久世光彦のテレビ

特集 久世光彦のテレビ

昭和の匂いを愛し、 テレビと遊んだ男

加山雄三80歳、未だ青春

特集 加山雄三80歳、未だ青春

4年前、初めて人生を激白した若大将

昭和は遠くなりにけり

特集 昭和は遠くなりにけり

北島寛の写真で蘇る団塊世代の子どもたち

西城秀樹 青春のアルバム

特集 西城秀樹 青春のアルバム

スタジアムが似合う男とともに過ごした時間

「舟木一夫」という青春

特集 「舟木一夫」という青春

「高校三年生」から 55年目の「大石内蔵助」へ

川喜多長政 &かしこ映画の青春

特集 川喜多長政 &かしこ映画の青春

国際的映画人のたたずまい

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

特集 ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

監督と女優の二人三脚の映画人生

中原淳一的なる「美」の深遠

特集 中原淳一的なる「美」の深遠

昭和の少女たちを憧れさせた中原淳一の世界

向田邦子の散歩道

特集 向田邦子の散歩道

「昭和の姉」とすごした風景

information »

new ロマンスカーミュージアムが3周年記念イベントを開催!

イベント ロマンスカーミュージアムが3周年記念イベ...

4月10日(水)~5月27日(日)

「箱根スイーツコレクション 2024」開催中 4月22日(月)まで キャンペーンも実施中

箱根 「箱根スイーツコレクション 2024」開...

Instagramをフォローして、素敵な賞品をゲットしよう

あの人この人の、生前整理archives

あの人この人の、生前整理archives
読者の声
Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial
error: Content is protected !!