パリは美食の宝庫であると同時に、世界最高峰のパティスリーが軒を連ねる街でもある。そんなパリで、最年少ながらパティシエの世界チャンピオンになった実話をもとにした『パリ・ブレスト ~夢をかなえたスイーツ~』が3月29日(金より全国公開となる。
実在のパティシエの名は、ヤジット・イシュムラン。1991年フランスのエペルネで生まれた。両親はともにモロッコからの移民だ。父は不在、母親はアルコール依存症、育児放棄という劣悪な環境で暗く孤独な生活を強いられた。2歳半から里親に預けられたが、その一家が優しく温かな家族だったことが幸運だった。少年ヤジットにとっては一家団欒で食べる手作りのスイーツが唯一の楽しみになり、いつしか自分も菓子職人になることが夢になったのだ。やがて児童養護施設に入るが、うまく機転をきかせ14歳でパリの高級レストランの見習いとして使ってもらえることになった。エペルネからパリの店への長時間通勤、野宿をしながらも必死に学び、夢に向かって充実した日々を過ごすヤジットだったが、そんな彼に嫉妬する輩の策略で、突然仕事を失ってしまう。失意のどん底であっても、ヤジットは負けなかった……。
ヤジットを演じたのは、アルジェリア生まれのリアド・ベライシュ。8歳の時に両親とフランスに移住してきた彼は、Tik Tokで6600万人のフォロワーを持つ映像クリエ―ター。板についたパティシエぶりで、チェーンソーを使って氷の菓子を創作するシーンや、丸いリング状のシューに濃厚なクリームを挟んだ〝パリ・ブレスト〟をつくるシーンなど、リアリティ迫るものがある。
母親は、移民で思うような仕事に就けず、生活保護を受けるため平気で子どもに嘘をつかせる。ヤジットが成長し、ショコラティエコンテストに出場するためにつくったお菓子も、母親のせいで台無しになってしまう。当然母親を避け疎遠になっていくが、母親が入院するとお見舞いにいかなくてもお菓子を送るヤジット。母親が病室でケーキを食べるシーンに目頭が熱くなった。華やかなパリの郊外では、貧しさと孤独を抱え親にも見捨てられた子供たちが必死で生きている。虐められ、一歩間違えれば底なし沼に落ちてしまう。ヤジットは里親が手を差し伸べてくれた。そんな大人が必要なのだと痛感する。
〝パリ・ブレスト〟をはじめ、チョコレートのコーティングをしたさくらんぼ状の「フォレ・ノワール」やフランスの伝統菓子「タルトタタン」等、登場してくる甘く、芸術的なスイーツに目もお腹もそそられっぱなし。
今やパリにも自身の店舗を持ちやルイ・ヴィトン、ディオール、バルマン、ショーメなどの高級ブランドとのコラボレーションも話題となるほど、人気のパティシエとして活躍するヤジットだが、困難を乗り越え、夢を掴んだサクセスストーリーは気持ちがよく、心が満たされる。
『パリ・ブレスト〜夢をかなえたスイーツ〜』
3/29(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館YEBISUGARDEN CINEMAほか全国ロードショー
監督:セバスチャン・テュラール
出演:リアド・ベライシュ、ルブナ・アビダル、クリスティーヌ・シティ、パトリック・ダスマサオ、フェニックス・ブロサール、リカ・ミナモト
配給:ハーク
(C)DACP-Kiss Films-Atelier de Production-France 2 Cinéma
公式HP:hark3.com/parisbres