「コンクラーベ」(教皇選挙)とは、ラテン語で「鍵と共に」の意で、カトリック教会の最高指導者であるローマ教皇の死去または辞任後に行われる。14億人以上のカトリック教徒のみならず、世界が注目する一大イベントである。ところが、メディアさえ立ち入りを禁じられ、外部からの介入や圧力を徹底的に遮断する選挙の舞台裏は未知の世界だ。ベールに包まれた「コンクラーベ」は、どのような場所で、いかなる手続きで執行されるのか、ジャーナリストで作家のロバート・ハリスの小説に基づく『教皇選挙』を『裏切りのサーカス』のピーター・ストローハンが脚色し、『西部戦線異状なし』のエドワード・ベルガー監督により映画化された。3月20日(木・祝)よりTOHOシネマズ シャンテ他全国ロードショーとなる。
ローマ教皇が心臓発作で急逝しその3週間後、バチカン宮殿周辺は厳戒態勢に入り、100人あまりの高位聖職者の枢機卿たちが、世界各地からバチカン宮殿に集結する。コンクラーベを執行するのは、トマス・ローレンス(レイフ・ファインズ)である。アメリカ人のベリ一二(スタンリー・トウッチ) は教会内のリベラル派でローレンスの友人。そしてナイジェリア人のアデイエミ(ルシアン・ムサマティ)は、もし選出されれば史上初のアフリカ系教皇となる。イタリア人のテデスコ(セルジオ・カステリット) は、リベラル派を嫌悪する強硬な伝統主義者。カナダ人のトランブレ(ジョン・リスゴー) は穏健な保守派である。彼らが有力な候補者だ。
選挙は全108人の枢機卿による無記名投票で行われ、新教皇の誕生には、2/3の72票以上を得ることだが、誰も必要獲得数を得られず2日目に持ち越される。礼拝堂の煙突から黒い煙が上がることで、教皇が決まらなかった結果が知らされる。
2日目の午前、2回、3回の投票でナイジェリア人のアデイエミが票を伸ばしたが72票に及ばす。午後に持ち越されることになった昼休みに、アデイエミに30年前の性的スキャンダルが明るみになるのだ。そこでアデイエミは脱落し、午後4、5回目の投票がなされるが票は割れる。
選挙3日目、聖マルタの家の運営責任者であるシスター・アグネス(イザベラ・ロツセリ一二) の証言によって、不正疑惑が明るみになりトランブレはあえなく失脚。最後に残ったのは、ローレンスとテデスコの二人。ローレンスは「自分は教皇の器ではない」と教皇になることを敬遠していたが、もし自分が新教皇に選出されたら受け入れようと、覚悟を決めていた。
ところが6回目の投票の最中、凄まじい轟音ととともに礼拝堂の一部が損壊する大事件が起こった。自爆テロによって多くの死傷者が出たのだ。すかさず保守強硬派のテデスコが多様性と寛容さを重んじてきた教会の姿勢を猛烈に批判しはじめ場は混乱する。
紛糾するその場を収めたのは、メキシコ人の新任枢機卿のベニテス(カルロス・ディエス)のスピーチだった。そして仕切り直しの投票が行われ、カトリック教会の未来を担う新教皇が選ばれるのだが……。選挙後、ローレンスが言葉を失うほどの衝撃を受けた秘密の真実とは……。
有力候補が次々失脚していくストーリー展開の面白さ。そして本作の衣装デザイナー、リジー・クリストルは、枢機卿のそれぞれが持つ十字架、指輪、靴、外套といったディテールを通して、キャラクターを表現したが、枢機卿を演じた俳優たちの野心が見え隠れする表情は、さすがだ。彼らの一挙一動に目が離せない。
最後に主役に躍り出た感じのベニテス枢機卿を演じたカルロス・ディエスについて書き留めておきたい。メキシコ生まれの彼は少年時代にカナダに移住し、俳優を志していたが内気な性格のため舞台に立てず、建築家として30年間働いていた。2本の短編映画に出演後、本作のキャスティングディレクターが実施したオーディションにより抜擢されたという。
本作は第97回アカデミー賞では作品賞ほか8部門にノミネートされていた。グランプリには至らなかったが、絵画のような美しさと聖職者たるものの持つ野心、そして思いもよらぬ結末。見応えのある作品である。

『教皇選挙』
3月20日(木・祝)TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー
配給:キノフィルムズ
© 2024 Conclave Distribution, LLC.
監督:エドワード・ベルガー(『西部戦線異状なし』)
脚本:ピーター・ストローハン(『裏切りのサーカス』)
原作:ロバート・ハリス著「CONCLAVE」
出演:レイフ・ファインズ、スタンリー・トゥッチ、ジョン・リスゴー、イザベラ・ロッセリーニ
2024年|アメリカ・イギリス|英語・ラテン語・イタリア語|カラー|スコープサイズ|120分|
原題:CONCLAVE|字幕翻訳:渡邉貴子|G
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