22.08.18 update

数々の映画賞総ナメのセリーヌ・シアマ監督による独創的な最新作『秘密の森の、その向こう』

 映画作品の好き嫌いや面白さの基準は人それぞれであるが、ストーリーの面白さに惹きこまれる作品と、映像美に惚れ込む作品の2種類があると思う。『秘密の森の、その向こう』は、どちらかと言えば、その映像美に圧倒された。72分という短い時間で完結する物語でありながら、余韻の残る作品であった。

 <不滅の名作>と絶賛された『燃ゆる女の肖像』のセリーヌ・シアマ監督の最新作であり、ベルリン国際映画祭での上映を皮切りに各国の映画祭でも高い評価を受けているという。

© 2021 Lilies Films / France 3 Cinéma

 8歳のネリーは、大好きな祖母が亡くなり、森の中にポツンと佇む祖母の家を母と訪ねる。何をみても思い出に胸を締め付けられる母は何も言わず、一人家を出てしまう。残されたネリーは片づけをする父を手伝うのだがそればかりでは次第に飽きてしまう。家から出て森の中を探索しているうちに、一人の少女と出会う。少女はネリーと同じ8歳。「マリオン」と名乗るのだ。「マリオン」は、母の名前と同じ……なのである。

 無邪気で可愛いネリー役の少女と瓜二つのマリオン役の少女、それに森の中の美しい景色に見とれていると、ストーリー重視派はこんがらがって来るからご注意を。

 マリオンの家に招かれるネリーだが、その家は、祖母の家だったのである。そして、マリオンは、8歳の母だったのである。その家には、若かりし頃病に悩む祖母もいた。

「?」となるが、タイムスリップしたわけでもなく、ミステリーでもファンタジーでもない。映画ならではの奇跡をもたらしたシアマ監督の仕掛けによって、娘・母・祖母の三世代の喪失を癒してくれるのだ。

 8歳の愛らしい少女を演じた二人は、実の双子姉妹で、映画初出演だという。この少女たちが今後どのように成長するかとても楽しみだ。シアマ監督が特に留意したのが衣装だそうで、1950年代から現在までの小学校のクラス写真を吟味し、各世代の子供たちが着ている服の共通点を探し、衣装を選んだ。どこか懐かしく感じるのは、そんな監督の細かいこだわりにあったのだろう。

 母娘の愛と喪失を描いた作品はたくさんあるが、独創的なストーリーで、映像も美しい唯一無二の世界を創りあげたセリーヌ・シアマ監督が絶賛される所以だろう。

『秘密の森の、その向こう』は、9月23日(金・祝)よりヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマほか全国順次公開。配給:ギャガ

映画は死なず

新着記事

  • 2024.04.17
    国の「重要文化的景観」に選定された<葛飾柴又>の知...

    京成電車下町さんぽ<1>

  • 2024.04.17
    渡り鳥のように、4箇所をぐるぐる ─萩原 朔美 ...

    第12回 キジュからの現場報告

  • 2024.04.17
    利発で、正義感が強く、潔癖で、ちょっぴり生意気で、...

    昭和30年後半の大映映画の青春スター

  • 2024.04.11
    相模原出身のロックバンド (Alexandros ...

    相模大野駅の列車接近メロディ

  • 2024.04.11
    下町の太陽、庶民派女優といわれながら都会の大人の女...

    150万枚のミリオンセラーを記録

  • 2024.04.09
    一日限りの『男はつらいよ』シネマ・コンサート開催!...

    6月29日(土)開催

  • 2024.04.08
    六本木ヒルズ・東京シティビュー 「創刊50周年記念...

    応募〆切:5月17日(金)

  • 2024.04.05
    俳優座の仲間たちから〝モヤ〟と呼ばれ、映画舞台の両...

    4期生とし養成所に入所

  • 2024.04.05
    本年度読売演劇大賞の大賞受賞後、初となる藤田俊太郎...

    東京公演:4月7日(日)開幕

  • 2024.04.04
    最高に幸せな7日間のラブストーリー『ハピネス』舞台...

    応募〆切:4月22日(月)

特集 special feature 

わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の  「芸業」

特集 わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の 「芸業...

棟方志功の誤解 文=榎本了壱

VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いなる遺産

特集 VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いな...

「逝ける映画人を偲んで2021-2022」文=米谷紳之介

放浪の画家「山下 清の世界」を今。

特集 放浪の画家「山下 清の世界」を今。

「放浪の虫」の因って来たるところ 文=大竹昭子

「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

特集 「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

「いい顔」と「いい顔」が醸す小津映画の後味 文=米谷紳之介

人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

特集 人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

わが母とともに、祐三のパリへ  文=太田治子

ユーミン、半世紀の音楽旅

特集 ユーミン、半世紀の音楽旅

いつもユーミンが流れていた 文=有吉玉青

没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、展覧会「萩原朔太郎大全」の旅 

特集 没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、...

言葉の素顔とは?「萩原朔太郎大全」の試み。文=萩原朔美

「芸術座」という血統

特集 「芸術座」という血統

シアタークリエへ

喜劇の人 森繁久彌

特集 喜劇の人 森繁久彌

戦後昭和を元気にした<社長シリーズ>と<駅前シリーズ>

映画俳優 三船敏郎

特集 映画俳優 三船敏郎

戦後映画最大のスター〝世界のミフネ〟

「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の流行歌 

昭和歌謡 「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の...

第一弾 天地真理、安達明、久保浩、美樹克彦、あべ静江

故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・木下惠介のこと

特集 故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・...

「つつましく生きる庶民の情感」を映像にした49作品

仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監督の信念

特集 仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監...

「人間の條件」「怪談」「切腹」等全22作の根幹とは

挑戦し続ける劇団四季

特集 挑戦し続ける劇団四季

時代を先取りする日本エンタテインメント界のトップランナー

御存知! 東映時代劇

特集 御存知! 東映時代劇

みんなが拍手を送った勧善懲悪劇 

寅さんがいる風景

特集 寅さんがいる風景

やっぱり庶民のヒーローが懐かしい

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

特集 アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

60年以上にわたる創造の全貌

東京日本橋浜町 明治座

特集 東京日本橋浜町 明治座

江戸薫る 芝居小屋の風情を今に

「花椿」の贈り物

特集 「花椿」の贈り物

リッチにスマートに、そしてモダンに

俳優たちの聖地「帝国劇場」

特集 俳優たちの聖地「帝国劇場」

演劇史に残る数々の名作生んだ百年のロマン 文=山川静夫

秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

特集 秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

役柄と素顔のはざまで

秋山庄太郎ポートレートの美学

特集 秋山庄太郎ポートレートの美学

美しきをより美しく

久世光彦のテレビ

特集 久世光彦のテレビ

昭和の匂いを愛し、 テレビと遊んだ男

加山雄三80歳、未だ青春

特集 加山雄三80歳、未だ青春

4年前、初めて人生を激白した若大将

昭和は遠くなりにけり

特集 昭和は遠くなりにけり

北島寛の写真で蘇る団塊世代の子どもたち

西城秀樹 青春のアルバム

特集 西城秀樹 青春のアルバム

スタジアムが似合う男とともに過ごした時間

「舟木一夫」という青春

特集 「舟木一夫」という青春

「高校三年生」から 55年目の「大石内蔵助」へ

川喜多長政 &かしこ映画の青春

特集 川喜多長政 &かしこ映画の青春

国際的映画人のたたずまい

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

特集 ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

監督と女優の二人三脚の映画人生

中原淳一的なる「美」の深遠

特集 中原淳一的なる「美」の深遠

昭和の少女たちを憧れさせた中原淳一の世界

向田邦子の散歩道

特集 向田邦子の散歩道

「昭和の姉」とすごした風景

information »

new ロマンスカーミュージアムが3周年記念イベントを開催!

イベント ロマンスカーミュージアムが3周年記念イベ...

4月10日(水)~5月27日(日)

「箱根スイーツコレクション 2024」開催中 4月22日(月)まで キャンペーンも実施中

箱根 「箱根スイーツコレクション 2024」開...

Instagramをフォローして、素敵な賞品をゲットしよう

あの人この人の、生前整理archives

あの人この人の、生前整理archives
読者の声
Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial
error: Content is protected !!