22.10.17 update

映画『アイ・アム まきもと』を鑑賞後、人々の心に灯がともる理由

『アイ・アムまきもと』を観た。下調べも知識もなく、阿部サダヲ主演なら面白いかな、という程度で近くのシネコンに出掛けた。

 市役所の「おみおくり係」牧本こと阿部サダヲは、空気が読めないというか、自己中になりやすい性格というか、役所組織にはなじめない存在で困った人として描かれる。しかし彼一人に任されている仕事は、身寄りのない孤独死した人のおみおくり。牧本ひとりで葬式を執り行い荼毘に付し遺骨をあずかるのだ。親類縁者を探し回り、遺骨を引き取るように、気持ちが変わるまで牧本があずかっている。無縁仏として納骨してしまえば終わりのはずだが、故人の遺品を見つけるとかつての家族と共に過ごした痕跡などが必ず出てくる。その遺品を頼りに身寄りを追跡する労苦は惜しまない。

 やがて市役所は牧本のやっている効率の悪い無縁仏の処理方法にリストラを敢行、最後のお役目は「蕪木」の葬儀を出すことだった。何しろ評判が悪く乱暴者だったが、憎めない一面がある。慕っている同僚がいる。牧本の追跡が始まる。炭鉱の落盤事故で同僚を命がけで助けたこと。食肉加工工場で働いていたこと、そこで従業員の過剰労働にひと肌ぬいだこと。路上生活時代の仲間が今でも慕っていること。娘がいたこと。牧本はあちこち歩き回り「蕪木」の人を助けようとする男気を知る。

 いつものように牧本が一人で執り行う葬儀が始まろうとしているが……。

 ネタバレはここまで。しかしこの豪華出演陣に、驚く勿れ。

 アパートで孤独死した蕪木孝一郎に宇崎竜童。身寄りがない遺体を一時管理している地元刑事の神代享に松下洸平。牧本と親しい葬儀屋の下林智之にでんでん。蕪木がむかし働いていた食肉加工会社の元同僚に松尾スズキ。県から異動してきた市民福祉局局長に就任した坪倉由幸。牧本の職場の直属の上司に篠井英介。かつて蕪木が路上生活をしていた時のホームレス仲間に嶋田久作。オウムを残して孤独死した老女が住むアパートの管理人に池津祥子。蕪木の元恋人で港で食堂を営む宮沢りえ。炭鉱時代の元同僚で事故の際に盲目になったものの蕪木に命を助けてもらい恩義を感じている國村隼。

 実力俳優陣がさりげなく登場し、牧本のおみおくりの純粋な気持ちに揺さぶられてゆくのだ。

 このあたりで気づいた。もう7年前のシネスイッチ銀座で観たイギリス映画『おみおくりの作法』がよみがえった。

 ロンドン市の民生係ジョン・メイ。身寄りがいなく亡くなった人を弔うのが彼の仕事。事務的に片付けることもできるこの仕事を、ジョン・メイは誠意をもってこなしている。

 ある日、彼の解雇が決まり、ジョン・メイの向かいの部屋に住んでいたビリー・ストークが最後の案件となる。ビリーの人生を紐解くために、ジョン・メイはイギリス中を旅する。そして、今までかかわることのなかった人々と触れ合っていくことでジョン・メイ自身も新たな人生を歩み始める……。

 良い映画はリメイク版も良い映画になる。

『アイ・アム まきもと』、ぜひお薦めします。ハンカチは忘れずに。まだロードショーには間に合います。

文=村澤次郎

映画は死なず

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