散歩は、街を一冊の本のように読むことだ。だから、スマホでの撮影は、読書感想を忘れないための、メモ書きみたいなものなのだ。この「スマホ散歩」を読んでくれた人が、それぞれの街を読書し始めたらとても嬉しい。何か楽しい風景に出会えることを願っている。
第51回 2024年7月29日
足元に小さな窓があった。今や全く見かけ無くなったトイレの窓だ。何故下に開口部を設置したのだろうか。昔のしゃがむスタイルだと、確かに視線が下だから、足元に窓があっても不思議はない。しかし、使用中わざわざ外など見る余裕はない。子供の頃、夜の小窓は誰かが覗いているようで怖かった。
寺山さんの俳句
便所より 青空見えて 啄木忌
だと、窓は普通の高さだ。
先日、絶滅したと思っていたトイレの小窓を見かけて懐かしくなり、思わず近付いて撮った。(後から考えたら、使用中でなくてよかった)
私の記憶では、トイレの小窓はいつも閉まっていた。不思議な開かずの窓。昭和の家には、外を見ない窓が一箇所あったのだ。
はぎわら さくみ
エッセイスト、映像作家、演出家、多摩美術大学名誉教授。1946年東京生まれ。祖父は詩人・萩原朔太郎、母は作家・萩原葉子。67年から70年まで、寺山修司主宰の演劇実験室・天井桟敷に在籍。76年「月刊ビックリハウス」創刊、編集長になる。主な著書に『思い出のなかの寺山修司』、『死んだら何を書いてもいいわ 母・萩原葉子との百八十六日』など多数。現在、萩原朔太郎記念・水と緑と詩のまち 前橋文学館の館長、金沢美術工芸大学客員教授、前橋市文化活動戦略顧問を務める。 2022年に、版画、写真、アーティストブックなどほぼ全ての作品が世田谷美術館に収蔵された。