散歩は、街を一冊の本のように読むことだ。だから、スマホでの撮影は、読書感想を忘れないための、メモ書きみたいなものなのだ。この「スマホ散歩」を読んでくれた人が、それぞれの街を読書し始めたらとても嬉しい。何か楽しい風景に出会えることを願っている。
第54回 2024年10月28日
廃校にはなった小学校が、食堂になったり、画廊になったりしている。私が時々行くのは、地産地消のカフェレストランで、地域の人達によって運営されている。校庭を見ながらのランチは、思い出に浸りながらの楽しい時間だ。食べ終わって校庭を探索すると、何かが足りない。気がついた。二宮金次郎像だ。知人の教員に聞くと、像は、全国的に撤去する学校が多いらしい。教育方針と合致しないためだそうだ。廃校になった時に廃棄されたのかも知れない。
先日、小田原の駅ビルでランチしている時、ふと窓の外を見たら、居たのだ。前屈みで本を読んでいるではないか。こんなところまで、歩いて来たのか、だった。以前、街中でも見かけたから、学校を追われた二宮金次郎は、今や繁華街に移住し始めたのかも知れない。
はぎわら さくみ
エッセイスト、映像作家、演出家、多摩美術大学名誉教授。1946年東京生まれ。祖父は詩人・萩原朔太郎、母は作家・萩原葉子。67年から70年まで、寺山修司主宰の演劇実験室・天井桟敷に在籍。76年「月刊ビックリハウス」創刊、編集長になる。主な著書に『思い出のなかの寺山修司』、『死んだら何を書いてもいいわ 母・萩原葉子との百八十六日』など多数。現在、萩原朔太郎記念・水と緑と詩のまち 前橋文学館の館長、金沢美術工芸大学客員教授、前橋市文化活動戦略顧問を務める。 2022年に、版画、写真、アーティストブックなどほぼ全ての作品が世田谷美術館に収蔵された。