萩原朔美のスマホ散歩
散歩は、街を一冊の本のように読むことだ。だから、スマホでの撮影は、読書感想を忘れないための、メモ書きみたいなものなのだ。この「スマホ散歩」を読んでくれた人が、それぞれの街を読書し始めたらとても嬉しい。何か楽しい風景に出会えることを願っている。
第5回 2020年9月29日
戦後に建てられた、昭和の匂いがする建物が消えていく。木造、モルタル、トタンなどの建材も見かけなくなった。
子供の頃、近所の住宅街で、玄関脇の部屋だけがフローリングに出窓が流行った。一部屋だけ憧れの洋間にしたかったのだ。そこにピアノを置くのがステイタスだった。同級生の出窓の家が最近取り壊されて、今や一軒も残っていない。
明治村の隣りに昭和村を作って、今の内に、消えかけた昭和を移築保存してほしいと思う。もちろん、令和生まれの人達にとって、昭和は明治時代だ。
はぎわら さくみ
エッセイスト、映像作家、演出家、多摩美術大学名誉教授。1946年東京生まれ。祖父は詩人・萩原朔太郎、母は作家・萩原葉子。67年から70年まで、寺山修司主宰の演劇実験室・天井桟敷に在籍。76年「月刊ビックリハウス」創刊、編集長になる。主な著書に『思い出のなかの寺山修司』、『死んだら何を書いてもいいわ 母・萩原葉子との百八十六日』など多数。現在、萩原朔太郎記念・水と緑と詩のまち 前橋文学館の館長を務める。