萩原朔美のスマホ散歩
散歩は、街を一冊の本のように読むことだ。だから、スマホでの撮影は、読書感想を忘れないための、メモ書きみたいなものなのだ。この「スマホ散歩」を読んでくれた人が、それぞれの街を読書し始めたらとても嬉しい。何か楽しい風景に出会えることを願っている。
第9回 2021年1月28日
ガリバーになりたかった。子供の頃の最大の夢だ。冒険者とか旅行者ではなくて、ひたすら小人の国に行きたかったのだ。ドールハウスのような家、手のひらに乗る兵隊、模型のような船に囲まれた生活。考えただけでワクワクする。東武ワールドスクエアやスモールワールドなどは、この世の桃源郷だ。街で見かけるミニサイズのモノを撮影してしまうのは、まだ子供の頃の夢が生きている証拠かも知れない。
まあ、発想としては、庭もお弁当もウォークマンも縮小の発想で、大人をガリバー化してくれるけれど、街そのものを俯瞰させてはくれない。
もしかすると、神の視点にたって世界を眺めたいのかもとも思う。神の視点から見ると、地上のあらゆる悲劇は、全て喜劇にしか見えない。別にその視線に憧れている訳ではないけれど。
はぎわら さくみ
エッセイスト、映像作家、演出家、多摩美術大学名誉教授。1946年東京生まれ。祖父は詩人・萩原朔太郎、母は作家・萩原葉子。67年から70年まで、寺山修司主宰の演劇実験室・天井桟敷に在籍。76年「月刊ビックリハウス」創刊、編集長になる。主な著書に『思い出のなかの寺山修司』、『死んだら何を書いてもいいわ 母・萩原葉子との百八十六日』など多数。現在、萩原朔太郎記念・水と緑と詩のまち 前橋文学館の館長を務める。