萩原朔美のスマホ散歩
散歩は、街を一冊の本のように読む事。だから、ついつい長引いてしまう。おまけに、携帯で撮影もするから散歩だか家出だか分からない。同じ場所を毎日撮る定点観測。奇異に感じた光景。同型の収集。カーブミラーに映る自分等。
面白いことに、散歩のついでだった撮影が、今では撮影するための散歩になってしまった。手段の目的化だ。これから展開する画像を見た人達が、それぞれ自分の好みで街を散歩し撮影し始めてくれたら、とても嬉しい。
第15回 2021年7月27日
同じ場所を、同じアングルで何年間か撮影していると、ある日突然ビックリさせられる事がある。大木がなくなっていたり、家が消えたりする。
隣りのマンションが消えてしまったこともあった。そのときは、4階に住んでいたので、朝窓から見える眼下を毎日必ず1枚撮影していた。多分何年間かは変わらないだろと想像してシャッターを押していたのだ。
ところが、旅行して帰ったら無くなっていた。撮影していなければ、それほど驚きは無いけれど、写真になった光景が激変すると、何故かショックが大きい。
何度かそう言う激変が続くと、カメラを向けると被写体が勝手に動き出すのではないか、などと思えてくるから不思議だ。だから、私は好きな建造物を定点観測写真の被写体にはしない事にしている。(笑)
はぎわら さくみ
エッセイスト、映像作家、演出家、多摩美術大学名誉教授。1946年東京生まれ。祖父は詩人・萩原朔太郎、母は作家・萩原葉子。67年から70年まで、寺山修司主宰の演劇実験室・天井桟敷に在籍。76年「月刊ビックリハウス」創刊、編集長になる。主な著書に『思い出のなかの寺山修司』、『死んだら何を書いてもいいわ 母・萩原葉子との百八十六日』など多数。現在、萩原朔太郎記念・水と緑と詩のまち 前橋文学館の館長を務める。