萩原朔美のスマホ散歩
散歩は、街を一冊の本のように読むことだ。だから、スマホでの撮影は、読書感想を忘れないための、メモ書きみたいなものなのだ。この「スマホ散歩」を読んでくれた人が、それぞれの街を読書し始めたらとても嬉しい。何か楽しい風景に出会えることを願っている。
第21回 2022年1月28日
最近、マスクに対する印象が変わった。以前は黒マスクの人を見ると好感度が下がった。見慣れない為か怪しさまで感じてしまった。
ところが今は、オシャレな印象すら受けてしまう。なにせアメリカの大統領も黒マスクでメディアに登場なのだ。
相撲の土俵では、黒房は冬を表しているという。夏に黒服だと暑苦しそうに見えるけど、冬は似合いそうだ。
日本で葬儀に黒服を着るのはつい最近の事で、歴史的には白だそうだ。ストーンズの「Paint It Black」は葬儀の話しだから、白から黒に変化したのは欧米の影響かも知れない。
私は、街で黒を見かけると、ついつい撮ってしまう。何故か。オシャレに感じるからでも、雨でも、憂鬱でも、葬儀の連想でもない。あらゆる色を混ぜ合わせると黒になる。だから、色の待ち合わせ場所,色の集合場所を見ているように感じるからなのである。
最近、大勢の友人と待ち合わせ、集合して、アナーキーな気分で騒ぎたくなっている自分がいる。
そういえば、黒はアナーキーズムのシンボルである。
はぎわら さくみ
エッセイスト、映像作家、演出家、多摩美術大学名誉教授。1946年東京生まれ。祖父は詩人・萩原朔太郎、母は作家・萩原葉子。67年から70年まで、寺山修司主宰の演劇実験室・天井桟敷に在籍。76年「月刊ビックリハウス」創刊、編集長になる。主な著書に『思い出のなかの寺山修司』、『死んだらなんでも書いてもいいわ 母・萩原葉子との百八十六日』など多数。現在、萩原朔太郎記念・水と緑と詩のまち 前橋文学館の館長を務める。