萩原朔美のスマホ散歩
散歩は、街を一冊の本のように読むことだ。だから、スマホでの撮影は、読書感想を忘れないための、メモ書きみたいなものなのだ。この「スマホ散歩」を読んでくれた人が、それぞれの街を読書し始めたらとても嬉しい。何か楽しい風景に出会えることを願っている。
第23回 2022年4月5日
連日、バッドニュースばかりに囲まれているから、道を歩いていてもいまいち心が晴れない。すれ違うひとの表情もパッとしない。もっともマスクだから、笑っていても分からない。(笑)
そんな時、道端にある
「ご自由にお持ち下さい」
の手書き文字に出会うとほっとする。
不要になったモノの、新たな活躍の場を探しているのだ。子供の遊具とか、食器とかが、いかにも新しい持ち主を待っているような様子で鎮座しているから、思わず立ち止まって見てしまう。欲しいものはないけれど、見る事が楽しいのだ。そして、何かいい事が待っているかのように思えてくるから不思議なのだ。「ご自由にお持ち下さい」は、人に優しい心をも、持ち帰えらせる言葉なのである。
はぎわら さくみ
エッセイスト、映像作家、演出家、多摩美術大学名誉教授。1946年東京生まれ。祖父は詩人・萩原朔太郎、母は作家・萩原葉子。67年から70年まで、寺山修司主宰の演劇実験室・天井桟敷に在籍。76年「月刊ビックリハウス」創刊、編集長になる。主な著書に『思い出のなかの寺山修司』、『死んだら何を書いてもいいわ 母・萩原葉子との百八十六日』など多数。現在、萩原朔太郎記念・水と緑と詩のまち 前橋文学館の館長を務める。