萩原朔美のスマホ散歩
散歩は、街を一冊の本のように読むことだ。だから、スマホでの撮影は、読書感想を忘れないための、メモ書きみたいなものなのだ。この「スマホ散歩」を読んでくれた人が、それぞれの街を読書し始めたらとても嬉しい。何か楽しい風景に出会えることを願っている。
第26回 2022年6月28日
馬の姿が激減した。
公園の子供用遊び道具だ。ブランコや滑り台は、ほとんど形状に変化なく人気を保っているのに、跨って遊ぶ遊具だけは姿を変えている。今や、跨るものは馬ではなくパンダや怪獣や新幹線や人気キャラクターたちなのだ。
一体何時ごろから、主役の座を譲ったのだろか。あるいは何時ごろが人気絶頂だったのだろうか。
考えてみると、馬がカッコよく見えるのはパレードだ。私は中学生の時、ご成婚パレードをテレビで観ている。おそらくその頃はまだ馬が人気だったに違いない。
最近リニューアルした公園で、不思議なものを見た。毛虫のような、カタツムリのような姿だ。動物でもスポーツカーでもキャラクターでもない、抽象的なものである。思わず見入ってしまった。実在するもののミニチュアなど跨ぎたくない。それが今という時代なのかも知れない。
はぎわら さくみ
エッセイスト、映像作家、演出家、多摩美術大学名誉教授。1946年東京生まれ。祖父は詩人・萩原朔太郎、母は作家・萩原葉子。67年から70年まで、寺山修司主宰の演劇実験室・天井桟敷に在籍。76年「月刊ビックリハウス」創刊、編集長になる。主な著書に『思い出のなかの寺山修司』、『死んだら何を書いてもいいわ 母・萩原葉子との百八十六日』など多数。現在、萩原朔太郎記念・水と緑と詩のまち 前橋文学館の館長、金沢美術工芸大学客員教授、アーツ前橋アドバイザーを務める。