萩原朔美のスマホ散歩
散歩は、街を一冊の本のように読むことだ。だから、スマホでの撮影は、読書感想を忘れないための、メモ書きみたいなものなのだ。この「スマホ散歩」を読んでくれた人が、それぞれの街を読書し始めたらとても嬉しい。何か楽しい風景に出会えることを願っている。
第25回 2022年5月30日
街角の電話ボックスに女性が入っている。楽しげな長電話の最中。外ではタバコを咥えた男性がイライラ。
こんな光景はもう見られない。昔の映画のなかの出来事になってしまった。
電話ボックスが、今街から消えつつある。電話は1人1台持ち歩く時代になってしまった。10円玉を片手に電話する様子なんて考えられない世代が大半を閉めてしまうのだろう。
なんの企画だか忘れたけれど、電話ボックスに何人入れるかを競ったイベントがあった。電話ボックスで出逢う小説もあった。渋谷の公園通りのように、外国のデザインを模したオシャレなものもあった。
先日現存しているか公園通りに行った。まだあった。しかし、みんなペンキの餌食になっていた。消え去るのは最早時間の問題だろう。わたしは、原因となった携帯で、その電話ボックスたちを撮影した。
はぎわら さくみ
エッセイスト、映像作家、演出家、多摩美術大学名誉教授。1946年東京生まれ。祖父は詩人・萩原朔太郎、母は作家・萩原葉子。67年から70年まで、寺山修司主宰の演劇実験室・天井桟敷に在籍。76年「月刊ビックリハウス」創刊、編集長になる。主な著書に『思い出のなかの寺山修司』、『死んだら何を書いてもいいわ 母・萩原葉子との百八十六日』など多数。現在、萩原朔太郎記念・水と緑と詩のまち 前橋文学館の館長、金沢美術工芸大学客員教授、アーツ前橋アドバイザーを務める。