散歩は、街を一冊の本のように読むことだ。だから、スマホでの撮影は、読書感想を忘れないための、メモ書きみたいなものなのだ。この「スマホ散歩」を読んでくれた人が、それぞれの街を読書し始めたらとても嬉しい。何か楽しい風景に出会えることを願っている。
第28回 2022年9月1日
どういう訳か、電柱とか、車、自転車、カラーコーン、ベンチなどが、取り残されたような孤独感を漂わせていると、思わず撮影してしまう。やけに寂しそうに見えてしまうのだ。
山奥の一軒家を訪ねる番組があるけれど、あの孤絶感に惹かれる気持ちはよく分かる。
もっとも街中で見かける「ぽつんと」は、家じゃないから人生も物語もない。あるのは、見かけた人が勝ってに作り上げる妄想のストーリーだ。(笑)
この「ぽつんと」を撮影していて初めて気がついた事がある。老人が1人ベンチにいるのをよく見かけるのだ。丸一日同じ場所にいた人もいた。その寂寥感は厳しい。だから私は人の「ぽつんと」は途中から撮影出来なくなった。
老人が主役になれる世の中は来るのだろうか。
はぎわら さくみ
エッセイスト、映像作家、演出家、多摩美術大学名誉教授。1946年東京生まれ。祖父は詩人・萩原朔太郎、母は作家・萩原葉子。67年から70年まで、寺山修司主宰の演劇実験室・天井桟敷に在籍。76年「月刊ビックリハウス」創刊、編集長になる。主な著書に『思い出のなかの寺山修司』、『死んだら何を書いてもいいわ 母・萩原葉子との百八十六日』など多数。現在、萩原朔太郎記念・水と緑と詩のまち 前橋文学館の館長、金沢美術工芸大学客員教授、アーツ前橋アドバイザーを務める。