戦後の第一次東宝争議中に作られた労働組合主導映画『明日を創る人々』(46年)は、製鉄工場や電鉄会社の他、「不二映画」なる映画撮影所の労働争議の実態を、ある家族を例にとって描くもの。黒澤明が自作とは認めないことでも知られるとおり、東宝の労働組合主導(それも複数監督)によるメッセージ映画で、撮影所が舞台となることから、当然ながらフィルムには東宝撮影所内の風景が多数写り込む。第1ステージで藤田進と高峰秀子が映画を撮影する模様や、中心メンバーの中北千枝子が噴水周りで組合員に向かって演説するシーンなどがあり、一般の観客がどういう気持ちで見たかはともかく、これはこれで大変貴重な記録である。
52年公開の『金の卵』(千葉泰樹監督)は正真正銘のバックステージもので、映画界のニュースターの誕生をめぐる成功と挫折の物語。東宝撮影所は「東邦株式会社撮影所」として登場する。住所は「世田谷区喜多見町百番地」で、その当時の東宝撮影所の住所表示どおりだ。
工場勤務の事務員・島崎雪子が、甥(井上大助)が勝手に応募した「第5回東邦ニューフェイス」(註1)試験を受けに来るのは、渋谷と東宝前を往復する小田急バスにて。俳優控室(演技課)の建物から出てくるのは杉葉子(第2回東宝NF)。審査員を務めるのは、山本嘉次郎、豊田四郎、稲垣浩、谷口千吉、宮田重雄、林房雄、田村泰次郎、越路吹雪、原節子に、藤本真澄、北猛夫、田中友幸ら、東宝関係者の面々である。
本作では、他にも池部良、山根寿子、三船敏郎(第1回東宝NF:出演中の『戦国無頼』の扮装で休憩中)、三國連太郎、大谷友右衛門、榎本健一、伊豆肇、山村聰などが本人役で出演、ノンクレジットながら上原謙も顔を見せる豪華さ。撮影所の内部も隈なく写し出されるので、東宝ファンは必見の一作である。
最後は、慢心した島崎が、交通事故による怪我で俳優業を断念せざるを得なくなるが、それでも撮影所には新たなニューフェイス応募者が殺到し、映画界は決して歯車を止めない、という皮肉な場面で映画は終わる。