23.04.25 update

第26回 【成城シネマトリビア】 映画の中で、東宝撮影所に潜入 Vol.2

▲第2ステージ前を闊歩する三船敏郎。その衣装から『暗黒街の対決』(60年)撮影時のスナップと分かる 写真提供:三船プロダクション

 坂本九主演の‶アワモリ君〟、江利チエミ主演の‶サザエさん〟の両シリーズでも、撮影所内での愉快なやり取りが展開される。
 シリーズ第二作『アワモリ君乾杯!』(61年:古澤憲吾監督)は、成城の街中でもロケが行われた作品だが、東宝撮影所、とりわけ「特撮倉庫」内部の様子が見られることで、特撮ファンには人気が高い作品である。ギャング(田武謙三、石川進ら)とアワモリ君らによる追っかけシーンで、彼らが入り込むのが東宝撮影所。エキストラと間違えられ、警官の扮装をさせられたギャングたちが入ったステージでは、『世界大戦争』(松林宗恵監督:本作と二本立て公開!)の撮影中で、フランキー堺や乙羽信子、星由里子の顔が見られる。こんな楽屋オチが成せたのも、監督の松林宗恵が古澤の師匠に当たる人だからだが、それにしても凄いワルノリぶりだ。
 特撮倉庫に侵入すると、そこには『宇宙大戦争』のナタール人やロケットのスピップ号、『地球防衛軍』のモゲラなどが眠っている。ギャングたちは怪獣・バランやモスラ、『日本誕生』に登場した八岐大蛇(ヤマタノオロチ)などに驚かされては、逃げ惑うばかり。『生きる LIVING』の脚本を書いたカズオ・イシグロが長崎時代に本作のオロチを見て、怯えたエピソードも有名である。

 サザエさんの方では、五作目『サザエさんの結婚』(59年)に東宝撮影所が登場する。雪村いづみ扮する平目スナ子は、東宝のニューフェイス試験に合格したことから磯野家に下宿。本シリーズでは磯野家は成城にある設定だから、これは実に理に適っている。そこで、サザエらがスナ子の仕事を見学するため、撮影所を訪ねる展開となる。

 本館ビル脇の正門をくぐると、噴水周りで加東大介、宝田明、草笛光子、団令子などスターたちが談笑中。ワカメがサインをねだると、司葉子が気軽に応じてくれる。スナ子が撮影に参加しているのはやはり第8ステージで、ツインになっている第9ステージと共に、黒澤映画から成瀬作品、さらには特撮作品まで幅広く使用されている。

▲かつての噴水跡。そこには、仙川沿い遊歩道の欄干に備えられたものと同じレリーフが鎮座。棕櫚の木は開所当時と変わらない 写真提供:春山啓子氏

 かくして、ひばり・チエミ・いづみの‶三人娘〟は揃って(別人として)東宝撮影所の門をくぐっており、この事実からは作っている側の遊び心が透けて見える。

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