同じく撮影所の内部の様子が垣間見られるのは、『にっぽん実話時代』(63年)なる雑誌記者もの。様々なジャンルで佳作を生み続けた福田純が監督した本作では、女優役の中真千子(若大将シリーズでは雄一の妹・照子に扮した)がミッキー・カーチスの記者から取材を受けるシーンが、撮影所正門を入ったところで撮影されている。
撮影所正門や守衛所の様子がよく見て取れるのが、植木等の人気シリーズの一篇『日本一の断絶男』(69年)である。鬼才・須川栄三が担当した‶日本一〟シリーズ第二作となる本作では、植木扮する詐欺師・日本(ひのもと)一郎が、映画スターのミミ子(緑魔子)を訪ねる「活映映画」撮影所のシーンが東宝撮影所で撮影されている。正門から入り込もうとする植木を阻止する守衛は東宝大部屋俳優の宇野晃司、日本は第1ステージ前でミミ子の姿を見かけ、噴水前でミミ子を口説く。メインストリートの先には、かまぼこ型の第3・第4ステージも確認できる。
比較的最近の東宝スタジオの雰囲気が窺えるのが、『ザ・マジックアワー』(08年)という三谷幸喜監督作。劇中『暗黒街の用心棒』他を製作している設定の本作では、映画撮影が実際に東宝スタジオを舞台に行われているので、改造前の撮影所内の風景がふんだんに見られる。果ては『黒い101人の女』なる作品を演出中の市川崑監督(註1)まで登場、三谷監督のシャレ=イタズラ(?)はさらに続くのであった……。
映画の中で見られる東宝撮影所の風景(註2)は以上のとおり。全盛期の‶夢の工房〟の姿を、こうした形で振り返ることができるのは、まさに夢のよう。東宝研究家である筆者は、撮影所の風景が写り込む作品がないか、今後も引き続き探索していく所存である。
(註1)実際に市川崑監督が撮った映画は『黒い十人の女』(61年/大映)。山本富士子、岸恵子、宮城まり子、岸田今日子、中村玉緒ら、錚々たる女優が出演したブラック・ミステリーで、90年代末に再評価された。
(註2)テレビ映画「太陽のあいつ」(67年:TBS)には、東宝映画好きにとって驚きの回がある。第10話「とびだせ若大将!」では、主人公の従弟・太郎が東宝撮影所に潜入。『南太平洋の若大将』撮影の模様(古澤憲吾が熱の入った演出ぶりを披露する)が垣間見られるだけでなく、山本嘉次郎監督まで登場。加山雄三との会話は、噴水周りでなされ、正門前のお店の様子もしっかりフィルムに写り込む。おまけに、大プールでは二瓶正也、当銀長太郎、勝部義夫によるドタバタ・シーンが展開され、まさに“東宝撮影所グラフィティ〟の趣きである。
たかだ まさひこ
東宝映画・日本映画研究家。1955年1月、山形市生まれ。生家が東宝映画封切館の株主だったことから、幼少時より東宝作品に親しむ。黒澤映画、クレージー映画、特撮作品には特に熱中。三船敏郎と植木等、ゴジラが三大アイドルとなる。著書に『成城映画散歩』(白桃書房)、『三船敏郎、この10本』(同)、『七人の侍 ロケ地の謎を探る』(アルファベータブックス)、近著として『今だから! 植木等』(同2022年1月刊)。5月には成城で、三船敏郎に関する映画セミナー(上掲)を開催する。