23.05.22 update

第1回 【私を映画に連れてって!】40年前製作発表の前日に高倉健の出演が決まった『南極物語』    

 また、当時、アメリカのアカデミー賞をほぼ独占放送していたのもフジテレビで「ゴールデン洋画劇場」枠だった。これは大変な作業で、アカデミー賞は生放送で時間の長さは決まっていない。3時間だったり4時間だったりする。それを出来るだけ早く(と言っても当時はアメリカ放送終了後ビデオ編集)持ち帰り、実質は1時間35分前後に編集。しかも放送は、授賞式から1週間は過ぎているので、今だとニュースバリューも殆どないであろうが。ただ、ここで『炎のランナー』(1981年製作:1982/3アカデミー賞授賞式)がアカデミー賞作品賞や作曲賞を獲ったことが、後の『南極物語』に繋がって来るとは。

▲1982年3月4日、東京プリンスホテルにて映画『南極物語』の製作発表記者会見が執り行われた。25億円という空前の製作費が話題をよんだ。

 1981年、この年、テレビ局が映画製作、或いは映画出資の必要性を強く感じた分岐点だったかもしれない。
「映画部」に来て、最初に渡された企画書は『【ドラマ】タロとジロは生きていた』だった。
 最初は「ゴールデン洋画劇場」を担当する部署がドラマを作る? ましてやその後、映画を作ることになるとは思いも寄らなかった。
 だが、1億円のテレビスペシャル企画(最初は連ドラ企画)が10億円以上の製作費の『南極物語』に変化するのは、時間の問題だったのだ。
 視聴率4位の会社に入社したが、1年後には1位になり、王貞治氏の代名詞だった「3冠王」をフジテレビが連発し、その後12年間(1982~1993)続いたことは、映画製作にも大きな影響を与えた。
 なぜならフジテレビは広告媒体でもあり、宣伝力が飛躍的に伸びたからである。

「映画部」に配属されてすぐに神楽坂の「和可菜」の夜に遭遇した。老舗の古い旅館という感じだったが、実はここで脚本を創る人も多く、最初にすれ違った方は深作欣二監督だった。自分の役割は元南極観測隊越冬隊長や、元隊員の方にお酌をする・・・。髭茫々のワイルドな風貌の方も多く、誰が誰だか最初はわからなかったが、北村泰一氏は、映画『南極物語』で渡瀬恒彦さん演じるモデルの人だった。
 それからは毎日のように四谷(当時は本塩町)の教科書センターに通って、主に小学校の教科書に「タロ・ジロ」の項があると片っ端からコピーした。また、本屋に行って「南極」とか「昭和基地」などの写真集などがあれば、すべて資料として購入した。

 ドラマ「タロジロは生きていた」の企画を『キタキツネ物語』のサンリオが製作していたら、フジテレビの出番はなかったかもしれない。映画部が、『キタキツネ物語』最高視聴率の御礼のお花を蔵原監督のご自宅に送ったことを喜んでいらしたことは、後日直接うかがった。映画が生まれるときは、ひょんな縁から、というのが非常に多い。一生懸命、机の前で試行錯誤して映画が生まれた経験は一度もない。仕組まれているわけではないが、この〝縁〟というキッカケはなかなか計算できない。特に、『南極物語』クラスの映画になると数々の縁が結び付いた結果である。〝奇跡〟という言葉が紙面に踊ることが多いが・・・。
 映画『南極物語』の制作、撮影などに関しては、蔵原惟繕監督、弟の蔵原惟二プロデューサーを中心とした<蔵原プロ>が請け負うことでプロフェッショナル集団による映画制作となった。では、フジテレビは何の役割が・・・
 制作=production、製作=present(提供する)と考えると、製作の大きな役割は、どれだけの制作費で、どういうキャストで、どのように宣伝して観客に届け、最終的に収支をプラスにする・・・。そもそもを考えると、この映画製作をやるのか、やらないかの判断をすることが最重要課題である。

1 2 3 4 5

映画は死なず

新着記事

  • 2024.12.26
    〝映像だからこそ叶ったアングルが魅せる〟と石丸幹二...

    ウィーン・フィルの「第九」

  • 2024.12.26
    主演・菅田将暉&井上真央『サンセット・サンライズ』...

    1月17日(金)全国公開

  • 2024.12.26
    中山美穂が横浜ビルボードのライブコンサートで最後に...

    中山美穂「You’re My Only Shinin’ Star」

  • 2024.12.25
    第6回【東宝映画スタア☆パレード】植木 等 ─ も...

    文=高田雅彦

  • 2024.12.25
    【帯津良一・88歳のときめき健康法】アロマテラピー...

    文=帯津良一

  • 2024.12.24
    第20回【私を映画に連れてって!】中山美穂は『Lo...

    文=河井真也

  • 2024.12.23
    松田聖子デビューから45年、伝説のプロデューサー若...

    〈わが昭和歌謡はドーナツ盤〉特別企画

  • 2024.12.19
    NHK紅白歌合戦の変遷をたどってみたら、東京宝塚劇...

    石橋正次「夜明けの停車場」

  • 2024.12.18
    坂本龍一が生前、東京都現代美術館のために遺した展覧...

    音と時間をテーマにした展覧会

  • 2024.12.18
    新しい年の幕開けに「おめでたい」をモチーフにした作...

    年明けに縁起物の美を堪能する

特集 special feature 

わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の  「芸業」

特集 わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の 「芸業...

棟方志功の誤解 文=榎本了壱

VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いなる遺産

特集 VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いな...

「逝ける映画人を偲んで2021-2022」文=米谷紳之介

放浪の画家「山下 清の世界」を今。

特集 放浪の画家「山下 清の世界」を今。

「放浪の虫」の因って来たるところ 文=大竹昭子

「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

特集 「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

「いい顔」と「いい顔」が醸す小津映画の後味 文=米谷紳之介

人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

特集 人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

わが母とともに、祐三のパリへ  文=太田治子

ユーミン、半世紀の音楽旅

特集 ユーミン、半世紀の音楽旅

いつもユーミンが流れていた 文=有吉玉青

没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、展覧会「萩原朔太郎大全」の旅 

特集 没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、...

言葉の素顔とは?「萩原朔太郎大全」の試み。文=萩原朔美

喜劇の人 森繁久彌

特集 喜劇の人 森繁久彌

戦後昭和を元気にした<社長シリーズ>と<駅前シリーズ>

映画俳優 三船敏郎

特集 映画俳優 三船敏郎

戦後映画最大のスター〝世界のミフネ〟

「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の流行歌 

昭和歌謡 「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の...

第一弾 天地真理、安達明、久保浩、美樹克彦、あべ静江

故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・木下惠介のこと

特集 故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・...

「つつましく生きる庶民の情感」を映像にした49作品

仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監督の信念

特集 仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監...

「人間の條件」「怪談」「切腹」等全22作の根幹とは

挑戦し続ける劇団四季

特集 挑戦し続ける劇団四季

時代を先取りする日本エンタテインメント界のトップランナー

御存知! 東映時代劇

特集 御存知! 東映時代劇

みんなが拍手を送った勧善懲悪劇 

寅さんがいる風景

特集 寅さんがいる風景

やっぱり庶民のヒーローが懐かしい

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

特集 アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

60年以上にわたる創造の全貌

東京日本橋浜町 明治座

特集 東京日本橋浜町 明治座

江戸薫る 芝居小屋の風情を今に

「芸術座」という血統

特集 「芸術座」という血統

シアタークリエへ

「花椿」の贈り物

特集 「花椿」の贈り物

リッチにスマートに、そしてモダンに

俳優たちの聖地「帝国劇場」

特集 俳優たちの聖地「帝国劇場」

演劇史に残る数々の名作生んだ百年のロマン 文=山川静夫

秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

特集 秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

役柄と素顔のはざまで

秋山庄太郎ポートレートの美学

特集 秋山庄太郎ポートレートの美学

美しきをより美しく

久世光彦のテレビ

特集 久世光彦のテレビ

昭和の匂いを愛し、 テレビと遊んだ男

加山雄三80歳、未だ青春

特集 加山雄三80歳、未だ青春

4年前、初めて人生を激白した若大将

昭和は遠くなりにけり

特集 昭和は遠くなりにけり

北島寛の写真で蘇る団塊世代の子どもたち

西城秀樹 青春のアルバム

特集 西城秀樹 青春のアルバム

スタジアムが似合う男とともに過ごした時間

「舟木一夫」という青春

特集 「舟木一夫」という青春

「高校三年生」から 55年目の「大石内蔵助」へ

川喜多長政 &かしこ映画の青春

特集 川喜多長政 &かしこ映画の青春

国際的映画人のたたずまい

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

特集 ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

監督と女優の二人三脚の映画人生

中原淳一的なる「美」の深遠

特集 中原淳一的なる「美」の深遠

昭和の少女たちを憧れさせた中原淳一の世界

向田邦子の散歩道

特集 向田邦子の散歩道

「昭和の姉」とすごした風景

あの人この人の、生前整理archives

あの人この人の、生前整理archives
読者の声
Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial
error: Content is protected !!