東宝配給時代の作品には『結婚三銃士』、『異国の丘』、『銀座カンカン娘』(すべて49年)などがあり、これらの映画で成城の風景を見出すことができる。撮影所が砧にあったのだからこれも当然のことだが、新東宝も東宝同様、成城をロケ地にしてつくった作品がことのほか多い。今回は、新東宝映画に見る成城の風景を作品ごとに紹介してみたい。
まずは、上原謙と高杉早苗が共演した『結婚三銃士』から。これは『愛染かつら』(38~39年/松竹)で有名な野村浩将監督によるラブ・コメ映画で、野村にとっては新東宝移籍後の二作目にあたる。本作は戦後すぐの成城学園前駅の駅舎とホーム、それに商店街の様子(店舗は長屋風)が窺える貴重な作品で、高杉が勤める化粧品会社の社屋には、新東宝第二撮影所(元は東宝第三撮影所、のちのオークラランド)の建物が見立てられている。成瀬巳喜男監督・田中絹代主演の『おかあさん』(52年)で香川京子が屋台で今川焼を作るシーンも、ここ第三撮影所内のオープンで撮影されている。
翌週公開の『女の闘ひ』は、千葉泰樹監督によるメロドラマ。新婚の妻・高峰三枝子が、夫に愛人(木暮美千代)があったことに気づくが、その夫(細川俊夫)は交通事故死し、女二人が奇妙な縁で結ばれていくという三角関係ものである。女性のしたたかさが強調されているのは、CIE(民間情報教育局)による〝自由主義の促進〟方針によるものであろうか。本作では高峰の自宅が成城の洋館・龍野邸(第21回でも紹介)でロケされており、以降、当洋館は新東宝と東宝の作品では定番ロケ地となっていく。
特撮ファンには「ウルトラQ」(66年/TBS)の「一の谷研究所」として知られ、‶聖地〟扱いされている龍野邸。「ウルトラQ」撮影後には作曲家・山田耕筰の住処となり、山田は1965年(昭和40年)暮れに、この家で死去している。「からたちの花」「ペチカ」「待ちぼうけ」など、北原白秋(時期は違うが成城の住人だった)とのコンビ作が多いこともよく知られる。遥かのちに、かの有名イラストレーター・Y氏の所有物となることなど、この時点ではまさに誰も予想できない〈未来予想図〉であった。