23.06.21 update

第2回【私を映画に連れてって!】 おニャン子、とんねるず、そして森田芳光監督のこと

 森田芳光監督の映画は自主映画『ライヴイン茅ヶ崎』(1978)の時から観ていた。森田監督の劇場用第1作『の・ようなもの』(1981)は大好きな一本だ。『家族ゲーム』(1983)、『それから』(1985)と顔の違う映画を連続して作りながら共に「キネマ旬報ベスト・テン1位」を獲得していた。『それから』に続いて発表された森田芳光オリジナル脚本・監督作が『そろばんずく』(1986)だ。
 「前の2本がキネ旬1位だろ、今度の映画は評論家が映評を書くのを戸惑う位のをやりたい!」と。だから、フジテレビとなんだ、と妙に納得した。しかもラジオ局でバッタリ会った【とんねるず】を主演にすると言う。フジテレビ社内でも「そろばん塾」の映画と認識していた幹部もいた。因みに「そろばんずく」=「計算ずく」の意だ。
 不思議かつ面白い撮影の毎日だったが、オールラッシュ(スタッフ)試写の時、たまたま監督の後ろに座って観ていた。終わって振り返った監督から「これ、面白いかぁ?」と聞かれ、よくわからないとも言えず、「はぁ・・・」と中途半端に答えた気がする。あれから37年。たまに観る度に、段々面白さを感じられるようになった。早すぎたのか・・・。勿論、当時の映画界の評価は予定通り低かったが。
 森田監督とは、亡くなられる近くまで、事務所での徹夜麻雀などよく遊んでもらった。中でもボウリングは思い出深い。森田組スタッフ打ち上げはいつもボウリング大会。『そろばんずく』も新宿ミラノボウルだった。僕はヒロインとして出演していた安田成美さんと同じレーン、隣が木梨憲武さんだったか・・・。その後二人は結婚した。

▲森田芳光監督『そろばんずく』の公開は1986年8月23日。業界を二分する広告代理店の熾烈な戦いを描いたコメディで、とんねるずの石橋貴明、木梨憲武が主演している。相撲部屋の名前からとったと思われる春日野八千男、時津風わたるという2人の役名といい(春日野八千男は、往年の宝塚の大スター春日野八千代をも連想させる)、二大広告代理店の社長に小林桂樹、三木のり平という東宝の人気サラリーマン映画だった「社長シリーズ」でおなじみの2人を配するなど、随所に遊び心が見られた。共演者には、この映画がきっかけで後に木梨憲武と結婚することになる安田成美をはじめ、小林薫、名取裕子、渡辺徹、石立鉄男、イッセー尾形、浅野ゆう子、木内みどり、それにチューリップの財津和夫も名を連ねている。さらに、81年の森田監督の劇場映画第1作『の・ようなもの』に主演していた伊藤克信も出演している。何かと話題の多い作品だった。


 ある日、監督から「田町のボウリング場(いつも田町ハイレーンかポートボウル)に夜10時集合!」と電話。時々、徹夜(?)ボウリングは、一緒にやっていたが、その時は証人にパートナーの三沢和子プロデューサーを立て、「10ゲームの真剣勝負だ!」と。
 アベレージは森田監督の方が高く、170前後と記憶しているが、「真剣勝負!」と言われると何か別の高揚するものが・・・。10番勝負で結果は監督の10戦全敗。僕からすると全勝だった。何ゲーム目かで監督が200に近いスコアで勝負あったかと思ったが、僕がラスト発奮したせいで200オーバーになり、監督の精魂は尽きた。ただ、これには後日談もある。それから20数年後。「また田町で真剣勝負だ!」の連絡。今度はほぼ自分が全敗した。この執念が森田芳光の映画の原点だったのかと感じる時がある。

▲2005年12月14日から15日にかけて日をまたいで行われた森田芳光監督と筆者とのボウリング対決。森田芳光は1981年、若い落語家を主人公とした『の・ようなもの』で劇場映画監督デビューした。83年の松田優作主演『家族ゲーム』が高い評価を得て、キネマ旬報ベスト・テン1位をはじめ、主要映画賞を獲得した。家族全員が長い食卓に一列に並んで座る印象的な食事場面を覚えている人も多いだろう。森田監督は、キネマ旬報、ブルーリボン賞などの監督賞を受賞し、松田優作もキネマ旬報、報知映画賞などの主演男優賞に輝いた。また、85年には、同じく松田優作主演で夏目漱石の『それから』を映画化し、キネマ旬報ベスト・テン1位に輝き、森田監督も監督賞を受賞している。そのほかにも沢田研二主演『ときめきに死す』、薬師丸ひろ子主演『メイン・テーマ』、吉本ばなな原作『キッチン』、渡辺淳一原作『失楽園』、向田邦子脚本のドラマを映画化した『阿修羅のごとく』、黒澤明監督作を織田裕二主演でリメイクした『椿三十郎』など、監督としてふり幅の広さを見せてくれたが、2011年に61歳の若さで鬼籍に入った。

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映画は死なず

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