今回はここからが肝心な話。新東宝が自主配給路線に入った後、1951年に市川崑が監督したメロドラマ『恋人』では、開始早々いきなり成城のお屋敷が目に飛び込んでくる。娘(久慈あさみ)を嫁に出そうとする千田是也と村瀬幸子夫妻の家は明らかに成城で、ここを娘の幼馴染み(池部良)が訪ねてきて、物語が転がり出す。結婚式の前日、本当は相思相愛なのに、お互いに気持ちを言い出せず、悶々とする様子を市川が繊細なタッチで描いた佳作である。
小林桂樹がラジオ局の新人アナウンサーに扮した『有頂天時代』(毛利正樹監督)も、51年公開の新東宝映画。本作では、成城学園の音楽教室「ミュージックホール」がアナウンサー養成所の講義室に見立てられている。当ホールは『続髙校三年生』(64年/大映)や『思い出の指輪』(68年/松竹)などでも見られる木造校舎だが、今では建て替わり、同学園の歴史記念館となっている。
同年公開の『唐手三四郎』(監督は成城住まいの並木鏡太郎)では、以前紹介した成城学園正門前のいちょう並木以外にも、主人公の岡田英次(このとき31歳!)が東都大の唐手部員であるとの設定もあって、成城キャンパスの風景がふんだんに見られる。
同じく成城学園内でロケされたのが、小林桂樹が大学の応援団長に扮した『恋の応援団長』(52年/井上梅次監督)という映画である。新東宝‶第1回ニューフェイス〟第1期生にして、これがデビュー作となった高島忠夫と共に成城学園ロケに参加した小林は、のちに東宝の『サラリーマン出世太閤記』(57年/筧正典監督)でも応援団長を熱演して、硬派の大学生役が似合うことを示している。
左幸子が性の悩みに悶々とする女子高校生を演じた『若き日のあやまち』(52年/野村浩将監督)は、大映で作られた『十代の性典』(53年)のさきがけ的作品。本作でも成城学園内ロケが大々的に敢行され、左が男子高校生から暴行を受けるシーンが、なんと学園内の雑木林で撮影されている。よくぞ学園は、こうした映画に撮影許可を与えたと思うが、それだけ新東宝との繋がりが深かった証しであろう。
成城キャンパスでロケされた作品には他にも、新東宝倒産直前に作られ、大宝映画として公開された‶六本木族〟映画『狂熱の果て』(61年/山際永三監督)がある。本作で見られる若者たちによる残虐かつ無軌道な行動は、日活の太陽族映画をはるかに上回っており、『ハワイの若大将』(63年:東宝)や『夢のハワイで盆踊り』(64年:東映)ではカラー画面で輝いて見えた校舎が、ここではモノクロで沈鬱に捉えられている。
石坂洋次郎原作・成瀬巳喜男監督による佳作『石中先生行状記』(三船敏郎ファンは必見!)の続編となる『戦後派お化け大会』(51年/佐伯清監督)、清水宏監督が小児麻痺問題にメスを入れた『しいのみ学園』(55年)、宇津井健主演の‶スーパージャイアンツ〟シリーズの一篇『鋼鉄の巨人 地球滅亡寸前』(57年)、そして中川信夫監督による人情もの『「粘土のお面より」 かあちゃん』(61年)などで見られるのが、東宝撮影所の南西に位置する砧小学校(註1)。‶玉石混交〟と言われる新東宝映画にあって、小林桂樹や杉葉子、宇野重吉や河原崎建三、二木てるみなどがロケに参加していることは、これらの作品のクオリティを大いに高めている。