最近発見した‶成城ロケ映画〟が、『兄の花嫁』(41年)という東宝映画。松竹から移籍してきたばかりの島津保次郎監督が本領を発揮した‶少市民もの〟で、太平洋戦争開戦直前に撮られた作品であるにもかかわらず、戦争の影はほとんど感じられない。
本作に登場する東宝女優は、山田五十鈴と原節子の二人。山田は題名の元となる兄嫁で、兄は高田稔。その兄の結婚式に出席するため大阪から上京してきた妹・昌子を原節子が演じている。
花嫁の親族たち(英百合子他)は家柄が違い過ぎることから、この結婚をあまり喜んでいないうえ、おまけに原のモダン・ガールぶりが鼻について仕方がない。ところが、当の夫婦仲は実にうまくいっていて、懸念されていた兄嫁と小姑・昌子の関係も、あまりに昌子が天真爛漫な性格をしていることから、二人はすぐに打ち解け、心配は杞憂に終わる。
このように、実にハッピーな展開を見せる本作。以降、原が戦中の東宝映画で演じた役柄とは大違いのさばさばとした雰囲気は、果たして演技なのか、地なのか? 全キャリアを通じても、最高度に明るい原節子がここにいる。すでにスターの座にあった山田五十鈴に堂々と対峙しているのも頼もしい限りだ。
本作では、明示されてはいないものの、兄夫婦の家が成城にある設定となっていて、原と山田、そして高田が澤柳通りにあった「三浦屋酒店」前で顔を合わせる。当酒店は、のちに『サザエさんの青春』(57年)や『サザエさんの結婚』(59年/どちらも監督は青柳信雄)にも登場。見れば、本作で見られる店構えが戦後も長く維持されたことが分かる。住宅地と商店街が明確に区分されていた成城にあって、酒屋だけは住宅街のど真ん中での営業を許されていた事実も実に興味深い(註1)。
ここで原は、駅に向かおうと店の角を左折すると(本当ならは直進すべきだが)、道に空いた穴に足を突っ込み、こけそうになるというギャグを披露。コメディエンヌぶりを大いに楽しんでいるように見える。
前1940年公開の『姉妹の約束』(山本薩夫監督)でも、原は成城南商店街の「富士見通り」に出没。応召して軍医をする父の代わりに、立派に母(英百合子)を支える姉妹の物語の本作では、夫が出征中の家庭を慰問するため、姉妹(花井蘭子、若原春江)と共に田園調布の家から成城にやってくる。姉妹の背後には「成城堂紙店」の看板が見えるが、下掲店舗広告のとおり当店は実在した店であることから、原が実際に成城の商店街を歩いたことは間違いない(註2)。戦犯死刑囚問題を扱った新東宝映画『モンテンルパの夜は更けて』(52年/青柳信雄監督)で、香川京子がこの通りを歩くことは以前紹介したとおりだ。