一の谷博士の催眠療法により、男の記憶が呼び起こされる。男は空を飛ぶ奇妙な電車に乗せられている。時間と空間を超越した別の世界へと向かっているこの電車は、どこからどう見ても「小田急ロマンスカー」。車種は「3100形NSE」であろうか。男を〝アンバランス・ゾーン〟(註4)へと導いたのは友野健二というSF作家で、演ずるのは怪優・天本英世(註5)。筆者にとっては、東宝怪奇映画『マタンゴ』(63年)での醜悪なキノコ人間の姿により、夜、電気を消して眠れなくなってしまったほどの恐怖を味わわせてくれた張本人である。
妻(東郷晴子)と娘に支えられ、一の谷研究所をタクシーで去った男が、再びいきなり車を停めて飛び出していくのは成城南口商店街(註6)の通り。場所は、現在の「マツモトキヨシ」の位置にあった「武平薬品商事」前で、同じ薬局というのは偶然にしては出来過ぎの感がある。よく見ると、その向かい側には魚屋の他、上敷・ゴザを扱う店もある。1965年当時、「成城にもこんな庶民的な店があったのか」と驚かれる方も多かろう。
万城目と由利ちゃんが再び車を走らせるのは、世田谷通りへと通じる、いわゆる成城六間通り。画面には砧電報局と『生きる』や『暗黒街の弾痕』にも登場する成城消防署が写るが、どちらの建物も現在のものとは違っている。