23.10.30 update

第32回【成城シネマトリビア】 「ウルトラQ」でも見られる成城の風景 テレビドラマ篇Vol.1

 かつて成城消防署の斜め前には、P.C.L.(東宝の前身)が作った最初の録音ステージがあった。のちに「東宝技術研究所」となり、ここで初代ゴジラの着ぐるみが造型される。ゴジラが決して成城を襲わないのは、ここが生まれ故郷だからであろうか。

▲旧P.C.L.の録音ステージ 写真提供:TOHOスタジオ(株)

「ウルトラQ」では、室内シーンは成城の南方、大蔵にあったステージ「東京美術センター」(かつては『七人の侍』や『用心棒』などのオープンセット用地で、のちに「東宝ビルト」に発展)で撮影されたが、東宝撮影所内にあった銀座オープン、いわゆる「東宝銀座」もたびたび使用されている。「五郎とゴロー」、「バルンガ」、「1/8計画」などでは、その画面から当オープンを利用して撮影したことが見て取れる。「マンモスフラワー」などでは都心ロケも行われたが、ここを使えたことはスケジュール面で大きな利点があったろう。当所はのちに住宅展示場となり、現在では本当に人が住むマンションになっている。

 放送第26話は、異色の人間ドラマ「燃えろ栄光」(脚本は千束北男こと飯島敏宏)。工藤堅太郎扮するボクサー、ダイナマイト・ジョーがロードワークをし、ラストで万城目や由利子、一平らに見送られ、どこへともなく歩き去っていく道は、いかにも成城学園正門前にあるいちょう並木のように見える。
 しかし、画面をよく見れば、このロケ現場は成城ではあり得ない。何故かと言えば、ここで見られる並木道には車道と舗道を隔てる段差があるからだ。実際、本作撮影時、成城のいちょう並木にこうした段差は存在しなかった。
 念のためロケに参加した西條康彦さん(筆者の大学の先輩に当たる)に伺ってみると、「成城で撮った記憶がないんだよね」とのお答え。本作のスクリプターを務めた田中敦子さんも、この現場は田園調布と明言されていたので、当ロケ地が成城でないことは確かだ。

▲1970年頃の成城いちょう並木。舗道に段差はない 提供:成城学園教育研究所

(註1)「ウルトラQ」放送開始日は1966年1月2日。このとき東宝系劇場で上映していたのは『怪獣大戦争』と『エレキの若大将』の二本立て。この日はスクリーンでもブラウン管でもゴジラの雄姿が見られたので、ゴメスがゴジラの改造であることに気づいた少年はかなり多かったはずだ。

(註2)「あけてくれ!」のお蔵入りにより、最終回放送日の7月10日には次週から始まる「ウルトラマン」の宣伝番組「ウルトラマン前夜祭」が急遽放送、子供たちの関心はたちまちそちらに移った。

(註3)撮影場所の住所は砧八丁目。道路脇には「東京都砧保健所」(その後、祖師谷に移転)の案内看板が見られる。旧砧保健所の脇には丸山誠治監督と俳優の谷晃の家があり、丸山作品でデビューした西條康彦さんは、正月には必ず丸山邸と成城の本多猪四郎邸に挨拶に伺っていたとのことだ。

(註4)本作の企画当初のタイトルは「UNBALANCE(アンバランス)」であった。

(註5) 時期は少しあとになるが、天本は砧七丁目にあった某クリーニング店の二階に居候していたことがある(隣室に住んでいた知人の証言による)。

(註6)当商店街を『姉妹の約束』で原節子が、『モンテンルパの夜は更けて』で香川京子が歩いたことは以前ご紹介したとおり。


高田 雅彦(たかだ まさひこ)

1955年1月、山形市生まれ。生家が東宝映画封切館の株主だったことから、幼少時より東宝作品に親しむ。黒澤映画、クレージー映画、特撮作品には特に熱中。三船敏郎と植木等、ゴジラが三大アイドルとなる。東宝撮影所が近いという理由で選んだ成城大卒業後は、成城学園に勤務。ライフワークとして、東宝を中心とした日本映画研究を続ける。現在は、成城近辺の「ロケ地巡りツアー」講師や映画講座、映画文筆を中心に活動、クレージー・ソングの再現に注力するバンドマンでもある。著書に『成城映画散歩』(白桃書房)、『三船敏郎、この10本』(同)、『七人の侍 ロケ地の謎を探る』(アルファベータブックス)、近著として『今だから! 植木等』(同2022年1月刊)がある。

1 2 3 4

映画は死なず

新着記事

  • 2024.11.21
    「星影のワルツ」「北国の春」という2つの大ヒット曲...

    千昌夫「夕焼け雲」

  • 2024.11.20
    能登の子どもたちや被災者を、美しい音楽で励ましてく...

    被災者に勇気を与えるウイーン・フィルの活動

  • 2024.11.20
    指揮・坂本龍一✕東京フィルハーモニー交響楽団による...

    坂本龍一の伝説のコンサートを映画館で!

  • 2024.11.19
    ベートーヴェン「第九」初演から200周年の記念すべ...

    12月31日特別先行上映、1月3日から1週間限定公開!

  • 2024.11.19
    敷寝具から枕まで世界最大級の熟睡ブランド、〈マニフ...

    特別モデル【エコ サンドロ】限定3000台の予約開始!

  • 2024.11.18
    公募展の発祥地〈東京都美術館〉のテーマは「ノスタル...

    芸術活動を活性化させ、鑑賞の体験を深める

  • 2024.11.18
    女優「高峰秀子」と妻「松山秀子」─日本映画史に燦然...

    高峰秀子という生き方

  • 2024.11.15
    本格イタリアンをご家庭で、日清製粉ウェルナの「青の...

    応募〆切: 12月20日(金)

  • 2024.11.15
    京都のグンゼ博物苑で、昭和の激動時代の魅力を伝える...

    グンゼの創業の地で、「昭和レトロ展」

  • 2024.11.14
    「嵐」と並ぶシングル58曲連続トップテン入りを果た...

    THE ARFEE「メリーアン」

特集 special feature 

わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の  「芸業」

特集 わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の 「芸業...

棟方志功の誤解 文=榎本了壱

VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いなる遺産

特集 VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いな...

「逝ける映画人を偲んで2021-2022」文=米谷紳之介

放浪の画家「山下 清の世界」を今。

特集 放浪の画家「山下 清の世界」を今。

「放浪の虫」の因って来たるところ 文=大竹昭子

「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

特集 「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

「いい顔」と「いい顔」が醸す小津映画の後味 文=米谷紳之介

人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

特集 人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

わが母とともに、祐三のパリへ  文=太田治子

ユーミン、半世紀の音楽旅

特集 ユーミン、半世紀の音楽旅

いつもユーミンが流れていた 文=有吉玉青

没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、展覧会「萩原朔太郎大全」の旅 

特集 没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、...

言葉の素顔とは?「萩原朔太郎大全」の試み。文=萩原朔美

喜劇の人 森繁久彌

特集 喜劇の人 森繁久彌

戦後昭和を元気にした<社長シリーズ>と<駅前シリーズ>

映画俳優 三船敏郎

特集 映画俳優 三船敏郎

戦後映画最大のスター〝世界のミフネ〟

「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の流行歌 

昭和歌謡 「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の...

第一弾 天地真理、安達明、久保浩、美樹克彦、あべ静江

故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・木下惠介のこと

特集 故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・...

「つつましく生きる庶民の情感」を映像にした49作品

仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監督の信念

特集 仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監...

「人間の條件」「怪談」「切腹」等全22作の根幹とは

挑戦し続ける劇団四季

特集 挑戦し続ける劇団四季

時代を先取りする日本エンタテインメント界のトップランナー

御存知! 東映時代劇

特集 御存知! 東映時代劇

みんなが拍手を送った勧善懲悪劇 

寅さんがいる風景

特集 寅さんがいる風景

やっぱり庶民のヒーローが懐かしい

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

特集 アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

60年以上にわたる創造の全貌

東京日本橋浜町 明治座

特集 東京日本橋浜町 明治座

江戸薫る 芝居小屋の風情を今に

「芸術座」という血統

特集 「芸術座」という血統

シアタークリエへ

「花椿」の贈り物

特集 「花椿」の贈り物

リッチにスマートに、そしてモダンに

俳優たちの聖地「帝国劇場」

特集 俳優たちの聖地「帝国劇場」

演劇史に残る数々の名作生んだ百年のロマン 文=山川静夫

秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

特集 秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

役柄と素顔のはざまで

秋山庄太郎ポートレートの美学

特集 秋山庄太郎ポートレートの美学

美しきをより美しく

久世光彦のテレビ

特集 久世光彦のテレビ

昭和の匂いを愛し、 テレビと遊んだ男

加山雄三80歳、未だ青春

特集 加山雄三80歳、未だ青春

4年前、初めて人生を激白した若大将

昭和は遠くなりにけり

特集 昭和は遠くなりにけり

北島寛の写真で蘇る団塊世代の子どもたち

西城秀樹 青春のアルバム

特集 西城秀樹 青春のアルバム

スタジアムが似合う男とともに過ごした時間

「舟木一夫」という青春

特集 「舟木一夫」という青春

「高校三年生」から 55年目の「大石内蔵助」へ

川喜多長政 &かしこ映画の青春

特集 川喜多長政 &かしこ映画の青春

国際的映画人のたたずまい

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

特集 ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

監督と女優の二人三脚の映画人生

中原淳一的なる「美」の深遠

特集 中原淳一的なる「美」の深遠

昭和の少女たちを憧れさせた中原淳一の世界

向田邦子の散歩道

特集 向田邦子の散歩道

「昭和の姉」とすごした風景

あの人この人の、生前整理archives

あの人この人の、生前整理archives
読者の声
Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial
error: Content is protected !!