24.05.30 update

第13回【私を映画に連れてって!】 岩井俊二、行定勲、堤幸彦、篠原哲雄、北村龍平、望月六郎、飯田譲治の7人の監督の短編映画集『Jam Films』でショートフィルム革命!

 最後は全く違ったコンセプトで。元々、そんなに小説は読まない方だが、原作のある映画化は10数本やってきた。映画製作を前提に作家にストーリーを書いてもらうのはどうだろうか。

 5本で2時間以内の映画。作家はショートをたくさん書いている人が多い。小説新潮などでも短編のエロティック特集がある。ショートのプロフェッショナルだ。ある人から小池真理子さんを紹介してもらえることになった。昔、小池さんの『恋』を映画化したいと思ったことがあった。初対面だが、コンセプトを言う立場なので「5本のエロティック映画」の1本のストーリーをお願いします、と。

「いいわよ」とあっさりOKしてもらい「他の4本の作家は?」と聞かれてもまだ決まっていない。小池さんが最初で、彼女のリアクションがとてもよく、心強くなって、作家に関しての相談にも乗っていただいた。乃南アサさん、唯川恵さんはあっさり決まった。たまたまかもしれないが、皆さん、直木賞作家だった。あまりに重鎮が並んだので、4人目は若く知名度の高い室井佑月さんにお願いした。5人目を本屋で考えているとき、目の前に『ツ、イ、ラ、ク』が現れ、これだ! と姫野カオルコさんにお願いした。彼女もその後『昭和の犬』で直木賞を受賞する。

 新潮社がいろいろ段取りなどもしてくれ、公開時に合わせて5作品が小説新潮に掲載され、半年後には文庫本化になり、好調なセールスになったと聞いた。新潮社の担当編集者には感謝だ。

小池真理子さんと唯川恵さんは軽井沢在住で、僕も軽井沢で打ち合わせをやったりした。無事に5本のショートストーリーが誕生し、監督の人選となった。

 タイトルはこれまでのコンセプトと大きく違うので『female』と名付けた。女性作家5人に書いてもらったことの要因が大きい。

 これがラストの『Jam Films』になることを考え、自分が仕事をしてみたい監督を中心に考えてみた。

 一人は『蛇イチゴ』(2002)でデビューした西川美和監督。本当は長編で、と思いながら、次回作の『ゆれる』(2006)の撮影までの時間でやってみる! と言ってくれた。5作品のストーリーを持ち歩きながら、西川監督にどれが良い? というような聞き方で、彼女は乃南アサさんの『女神のかかと』を選んだ。

 その頃、何故か毎週のように演劇を観ていて、大人計画の社長と顔見知りにもなり、何度か会っていた松尾スズキさんにどれが良いですか? と尋ねた。「思いっきりエロでいいですよ!」と言って、かれは唯川恵さんの『夜の舌先』をチョイスした。高岡早紀さん主演の思いっきりエロ作品になった。

 なかなか映画の縁がなかった塚本晋也監督には小池真理子さんの『玉虫』を。石田えりさんのエロティシズムが爆発した。

 エロのプロフェッショナルでもある廣木隆一監督は室井佑月さんの『太陽のみえる場所まで』。篠原哲雄監督には、姫野カオルコさんの『桃』を長谷川京子さん主演で。

 全体の音楽プロデューサーに今井了介さん(「HERO」等ヒット作多数)、全体のオープニング・エンディングの映像はコリオグラファーの夏まゆみさんが演出もしてくれた。

 創ることは楽しかったが、R18指定なので、大きなヒットにはならなかったものの、話題にはなり、ラストの作品としてはこれで良かったのではないかと思った。

 あれからアメリカン・ショートショートフィルムフェスティバルは、ショートショートフィルムフェスティバル&アジアと名称を変え、大きな規模になって今も開催されている。今年で26回目である。これだけ続けているのは凄いことで、『Jam Films』は4作で一旦終わってしまった。

 時代の流れで行けば、これからますます短編や中編は重要な存在になって行くのではないか。もちろん、長編を目指す人のステップアップの場としての存在意義もあるが、小説の世界と同様に「ショート」そのものの傑作がこれからたくさん登場してくるのではないだろうか。

 2022年に第17回札幌国際短編映画祭の審査員を、石川慶監督(日本アカデミー賞最優秀監督賞受賞『ある男』等)とアメリカのILMの女性プロデューサーと行った。50本以上の作品を観て、3人で話し合いながら賞を決めた。石川慶監督はポーランドの大学の学生だった頃にこの映画祭に応募経験がある。残念ながら賞は獲れなかったそうだが。驚くほど面白い作品が多くあり、実写、アニメ含めて2000本以上の世界のエントリー作品から選ばれただけの事はあると思った。

 短編も長編も、面白い作品は、万国共通で楽しめることを改めて感じることができた。

▲〝女性とエロティシズム〟をテーマにした2005年のオムニバス映画『female』。映画の企画をもとに、小池真理子、唯川恵、乃南アサ、姫野カオルコ、室井佑月の5人の女性作家が原作を書き下ろした。それぞれの作家と監督との組み合わせも見もので、高岡早紀、石田えり、長谷川京子ら、体を張った女優たちの演技も大きな話題となった。姫野原作『桃』は篠原哲雄監督、長谷川京子、池内博之の出演。室井原作『太陽の見える場所まで』は、廣木隆一監督、大塚ちひろ、石井苗子、片桐はいりの出演。唯川原作『夜の舌先』は松尾スズキ監督、高岡早紀、近藤公園、ルビー・モレノの出演。乃南原作『女神のかかと』は、西川美和監督、大塚寧々、森田直幸の出演。小池原作『玉虫』は、塚本晋也監督、石田えり、加瀬亮、小林薫の出演。新たなる作家と、気鋭の映画人とのタッグによる令和版短編映画集を観てみたくなった。

かわい しんや
1981年慶應義塾大学法学部卒業後、フジテレビジョンに入社。『南極物語』で製作デスク。『チ・ン・ピ・ラ』などで製作補。1987年、『私をスキーに連れてって』でプロデューサーデビューし、ホイチョイムービー3部作をプロデュースする。1987年12月に邦画と洋画を交互に公開する劇場「シネスイッチ銀座」を設立する。『木村家の人びと』(1988)をスタートに7本の邦画の製作と『ニュー・シネマ・パラダイス』(1989)などの単館ヒット作を送り出す。また、自らの入院体験談を映画化した『病院へ行こう』(1990)『病は気から〜病院へ行こう2』(1992)を製作。岩井俊二監督の長編デビュー映画『Love Letter』(1995)から『スワロウテイル』(1996)などをプロデュースする。『リング』『らせん』(1998)などのメジャー作品から、カンヌ国際映画祭コンペティション監督賞を受賞したエドワード・ヤン監督の『ヤンヤン 夏の想い出』(2000)、短編プロジェクトの『Jam Films』(2002)シリーズをはじめ、数多くの映画を手がける。他に、ベルリン映画祭カリガリ賞・国際批評家連盟賞を受賞した『愛のむきだし』(2009)、ドキュメンタリー映画『SOUL RED 松田優作』(2009)、などがある。2002年より「函館港イルミナシオン映画祭シナリオ大賞」の審査員。2012年「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭」長編部門審査委員長、2018年より「AIYFF アジア国際青少年映画祭」(韓国・中国・日本)の審査員、芸術監督などを務めている。また、武蔵野美術大学造形構想学部映像学科で客員教授を務めている。

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