24.09.03 update

第16回【私を映画に連れてって!】 十代の宮﨑あおいが三億円強奪事件実行犯を演じた『初恋』と、山田孝之主演で東野圭吾原作小説を映画化した『手紙』

 もう一つは『手紙』(2006/生野慈朗監督/山田孝之・玉山鉄二・沢尻エリカ)だ。この映画はGAGAの製作・配給で300スクリーン近くで上映され12億円強のヒットになった。

 この企画もアミューズ時代に出会ったもので、なかなかメジャーで公開できる糸口が見いだせなかった。今でこそ、ベストセラー作家の東野圭吾さんの原作だが、当時は毎日新聞社刊の単行本で、書籍担当の方にお会いした時は6万部程度の発行部数だった。GAGAに来て、とにかくメジャーでヒットさせることが重要な役目だった。

 監督起用も、当初の評価の高い映画監督から、エンタテインメント性を高めてもらえそうな人を考えることになった。ドラマ「3年B組金八先生」(1979/TBS)から「愛してくれると言ってくれ」(1995/TBS)など、幅広い演出で定評のあったTBSの生野慈朗さんにアプローチしてみることになった。幸い、TBSには知り合いのプロデューサーもいて、最終的には人事部とも相談して、監督料をTBSに支払って〝お借り〟する形とした。出資の話も出たが、僕がフジテレビの身分もあり、監督レンタルだけにした。

 映画『リング』(1998)の時、原作では「男主人公」の話を、シナリオで「女主人公」に大胆に変更した。『手紙』では、主人公(山田孝之)が、原作では「バンド」を結成する設定だったのを、脚本では「漫才コンビ」に変更させてもらった。メジャー展開出来る映画を意識し、「売れないバンドマン」より「漫才」シーンは笑いも取れ、「感動シーン」とのギャップも大きいからである。東野圭吾さんは、たまたま僕と同年、互いに大阪生まれ。一度しかお会いすることはなかったが、直木賞作家にもなる前で、映画化には快く、応じていただけた。

 制作中に、今も忘れがたい出来事があった。

▲生野慈朗監督作品『手紙』は、犯罪加害者の親族の視点に立って、その心情の動向を追った東野圭吾の小説の映画化で、2006年11月3日に公開された。山田孝之、玉山鉄二、沢尻エリカ、吹石一恵、杉浦直樹らが出演。2008年には舞台化もされ、16年、17年、22年には藤田俊太郎演出によりミュージカルとしても上演されている。18年には亀梨和也主演でテレビドラマ化もされた。左から筆者、生野監督。

 

 僕はテレビ局出身と言えども、当時は映画会社GAGAの一員であり、映画専門でもある。テレビドラマのノウハウはよくわからないが、映画に関してはカンヌ国際映画祭等で賞をもらったりなどの経験をしている。〝映画の常識・イロハ〟とでも言おうか。

 たとえば、連続ドラマのように、主人公がセリフで展開を過多に説明したり、心情吐露したりすることは、映画は出来るだけ少ないほうが良い、とか。感動シーンも大げさに音楽で煽ったりしないとか……。

1 2 3 4

映画は死なず

新着記事

  • 2024.11.21
    「星影のワルツ」「北国の春」という2つの大ヒット曲...

    千昌夫「夕焼け雲」

  • 2024.11.20
    能登の子どもたちや被災者を、美しい音楽で励ましてく...

    被災者に勇気を与えるウイーン・フィルの活動

  • 2024.11.20
    指揮・坂本龍一✕東京フィルハーモニー交響楽団による...

    坂本龍一の伝説のコンサートを映画館で!

  • 2024.11.19
    ベートーヴェン「第九」初演から200周年の記念すべ...

    12月31日特別先行上映、1月3日から1週間限定公開!

  • 2024.11.19
    敷寝具から枕まで世界最大級の熟睡ブランド、〈マニフ...

    特別モデル【エコ サンドロ】限定3000台の予約開始!

  • 2024.11.18
    公募展の発祥地〈東京都美術館〉のテーマは「ノスタル...

    芸術活動を活性化させ、鑑賞の体験を深める

  • 2024.11.18
    女優「高峰秀子」と妻「松山秀子」─日本映画史に燦然...

    高峰秀子という生き方

  • 2024.11.15
    本格イタリアンをご家庭で、日清製粉ウェルナの「青の...

    応募〆切: 12月20日(金)

  • 2024.11.15
    京都のグンゼ博物苑で、昭和の激動時代の魅力を伝える...

    グンゼの創業の地で、「昭和レトロ展」

  • 2024.11.14
    「嵐」と並ぶシングル58曲連続トップテン入りを果た...

    THE ARFEE「メリーアン」

特集 special feature 

わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の  「芸業」

特集 わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の 「芸業...

棟方志功の誤解 文=榎本了壱

VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いなる遺産

特集 VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いな...

「逝ける映画人を偲んで2021-2022」文=米谷紳之介

放浪の画家「山下 清の世界」を今。

特集 放浪の画家「山下 清の世界」を今。

「放浪の虫」の因って来たるところ 文=大竹昭子

「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

特集 「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

「いい顔」と「いい顔」が醸す小津映画の後味 文=米谷紳之介

人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

特集 人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

わが母とともに、祐三のパリへ  文=太田治子

ユーミン、半世紀の音楽旅

特集 ユーミン、半世紀の音楽旅

いつもユーミンが流れていた 文=有吉玉青

没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、展覧会「萩原朔太郎大全」の旅 

特集 没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、...

言葉の素顔とは?「萩原朔太郎大全」の試み。文=萩原朔美

喜劇の人 森繁久彌

特集 喜劇の人 森繁久彌

戦後昭和を元気にした<社長シリーズ>と<駅前シリーズ>

映画俳優 三船敏郎

特集 映画俳優 三船敏郎

戦後映画最大のスター〝世界のミフネ〟

「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の流行歌 

昭和歌謡 「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の...

第一弾 天地真理、安達明、久保浩、美樹克彦、あべ静江

故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・木下惠介のこと

特集 故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・...

「つつましく生きる庶民の情感」を映像にした49作品

仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監督の信念

特集 仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監...

「人間の條件」「怪談」「切腹」等全22作の根幹とは

挑戦し続ける劇団四季

特集 挑戦し続ける劇団四季

時代を先取りする日本エンタテインメント界のトップランナー

御存知! 東映時代劇

特集 御存知! 東映時代劇

みんなが拍手を送った勧善懲悪劇 

寅さんがいる風景

特集 寅さんがいる風景

やっぱり庶民のヒーローが懐かしい

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

特集 アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

60年以上にわたる創造の全貌

東京日本橋浜町 明治座

特集 東京日本橋浜町 明治座

江戸薫る 芝居小屋の風情を今に

「芸術座」という血統

特集 「芸術座」という血統

シアタークリエへ

「花椿」の贈り物

特集 「花椿」の贈り物

リッチにスマートに、そしてモダンに

俳優たちの聖地「帝国劇場」

特集 俳優たちの聖地「帝国劇場」

演劇史に残る数々の名作生んだ百年のロマン 文=山川静夫

秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

特集 秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

役柄と素顔のはざまで

秋山庄太郎ポートレートの美学

特集 秋山庄太郎ポートレートの美学

美しきをより美しく

久世光彦のテレビ

特集 久世光彦のテレビ

昭和の匂いを愛し、 テレビと遊んだ男

加山雄三80歳、未だ青春

特集 加山雄三80歳、未だ青春

4年前、初めて人生を激白した若大将

昭和は遠くなりにけり

特集 昭和は遠くなりにけり

北島寛の写真で蘇る団塊世代の子どもたち

西城秀樹 青春のアルバム

特集 西城秀樹 青春のアルバム

スタジアムが似合う男とともに過ごした時間

「舟木一夫」という青春

特集 「舟木一夫」という青春

「高校三年生」から 55年目の「大石内蔵助」へ

川喜多長政 &かしこ映画の青春

特集 川喜多長政 &かしこ映画の青春

国際的映画人のたたずまい

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

特集 ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

監督と女優の二人三脚の映画人生

中原淳一的なる「美」の深遠

特集 中原淳一的なる「美」の深遠

昭和の少女たちを憧れさせた中原淳一の世界

向田邦子の散歩道

特集 向田邦子の散歩道

「昭和の姉」とすごした風景

あの人この人の、生前整理archives

あの人この人の、生前整理archives
読者の声
Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial
error: Content is protected !!