もう一つは『手紙』(2006/生野慈朗監督/山田孝之・玉山鉄二・沢尻エリカ)だ。この映画はGAGAの製作・配給で300スクリーン近くで上映され12億円強のヒットになった。
この企画もアミューズ時代に出会ったもので、なかなかメジャーで公開できる糸口が見いだせなかった。今でこそ、ベストセラー作家の東野圭吾さんの原作だが、当時は毎日新聞社刊の単行本で、書籍担当の方にお会いした時は6万部程度の発行部数だった。GAGAに来て、とにかくメジャーでヒットさせることが重要な役目だった。
監督起用も、当初の評価の高い映画監督から、エンタテインメント性を高めてもらえそうな人を考えることになった。ドラマ「3年B組金八先生」(1979/TBS)から「愛してくれると言ってくれ」(1995/TBS)など、幅広い演出で定評のあったTBSの生野慈朗さんにアプローチしてみることになった。幸い、TBSには知り合いのプロデューサーもいて、最終的には人事部とも相談して、監督料をTBSに支払って〝お借り〟する形とした。出資の話も出たが、僕がフジテレビの身分もあり、監督レンタルだけにした。
映画『リング』(1998)の時、原作では「男主人公」の話を、シナリオで「女主人公」に大胆に変更した。『手紙』では、主人公(山田孝之)が、原作では「バンド」を結成する設定だったのを、脚本では「漫才コンビ」に変更させてもらった。メジャー展開出来る映画を意識し、「売れないバンドマン」より「漫才」シーンは笑いも取れ、「感動シーン」とのギャップも大きいからである。東野圭吾さんは、たまたま僕と同年、互いに大阪生まれ。一度しかお会いすることはなかったが、直木賞作家にもなる前で、映画化には快く、応じていただけた。
制作中に、今も忘れがたい出来事があった。
僕はテレビ局出身と言えども、当時は映画会社GAGAの一員であり、映画専門でもある。テレビドラマのノウハウはよくわからないが、映画に関してはカンヌ国際映画祭等で賞をもらったりなどの経験をしている。〝映画の常識・イロハ〟とでも言おうか。
たとえば、連続ドラマのように、主人公がセリフで展開を過多に説明したり、心情吐露したりすることは、映画は出来るだけ少ないほうが良い、とか。感動シーンも大げさに音楽で煽ったりしないとか……。