東宝カラーとはいささかかけ離れた、ブルーカラー系の若き男女が織り成すこの青春映画に、中学生にもかかわらず強い共感を覚えた筆者。汗みどろ、雨まみれで、まるで東宝映画らしくない設定(舞台は川崎の工場街)なのに、何とも爽やかな風が吹きぬけるのは、ワコちゃんの清楚さと武満徹の音楽(荒木一郎歌唱の主題歌が輪をかけて心を震わす)があればこそ。この映画で感じた風は、同時代で見た我々の心に今も吹き続けている。
同じく黒沢年男(現年雄)とコンビを組んだ『街に泉があった』(同/監督:浅野正雄)でのワコちゃんもまた、我々少年たちのハートを鷲づかみにした。三田明の同名主題歌(吉田正作曲。実に良い曲だ)に加え、佐藤允、黒沢年男、三田明らの兄弟たちが乙羽信子の母親や其々の幸せを模索するシチュエーション(貧しくも明るく生きる下町もの)はさながら日活映画だが、どこから見ても清純そのものの酒井和歌子には、これを東宝印に変えてしまう魔法の力があった。
重要なポイントは『めぐりあい』同様、この二作(及び翌69年の『俺たちの荒野』)に黒沢との激しいキス・シーンがあることだ。そう、酒井は内藤の演技からは決して感じられないパッションを、全身からほとばしらせていたのである。
かくして、『めぐりあい』でヒロイン・典子を演じた瞬間、当時の若者のミューズに祭り上げられたワコちゃん。誠に遺憾なことだが、以降、東宝という健全なスクリーン上で、これを超える役柄にめぐりあうことは決してなかった。