ジュリーと並ぶ、もう一方の雄・ショーケン(こちらは不良っぽさが売り)は、グループで『ザ・テンプターズ 涙のあとに微笑みを』(69年/内川清一郎監督)という東京映画作品に出演。だが、このGS映画では成城の北方、粕谷のガスタンク(現東京ガス世田谷整圧場)前で歌うシーン(註5)があるだけで、成城の街を歩くショーケン=萩原健一の姿を見るのは、神代辰巳監督の初東宝作品『青春の蹉跌』(74年)まで待たねばならなかった。この映画は脚本を長谷川和彦(のちに沢田研二主演で『太陽を盗んだ男』を監督)、音楽をザ・スパイダース出身でショーケンとはPYGで一緒だった井上堯之が担当しており、萩原のその後の役者としての方向性を決定づける作品となったことでも知られる。
石川達三の小説の映画化となる本作は、題名どおり、司法試験合格と上流階級の娘との結婚を目論む苦学生が、殺人を犯したことで挫折する(殺されるのは桃井かおり!)アンハッピーエンドの物語。上昇志向を漲らせる青年を、萩原が微妙な陰りをもって演じている。
そして、そのロケ現場こそ、成城学園正門傍にある桜並木通り。萩原が婚約者の檀ふみと自転車で戯れる、ラストシーン近くの撮影は、成城大生の通学路のすぐ先にあるこの通りで行われていたのだ(註6)。
檀ふみの父親(高橋昌也:青年にとっては伯父にあたる)は成城に家がある設定で、萩原はこの伯父の援助により大学に通うことができている。キャンパス・シーンは日本大学商学部(砧五丁目:かつては新東宝撮影所だった)でのロケと見られ、実際、西通用門の前にあった喫茶店内でも撮影が行われている。
注目すべきは、萩原が「さいたら節」(宮城民謡)をぼそぼそ歌いながら成城学園前駅改札口を出るシーン。当駅は、小田急では初となる二階部分に改札口がある〈橋上駅舎〉で、改札を通過した萩原は、伯父の家が駅の北側にある設定にもかかわらず、何故か南口方面の階段を降りていく(このシーンは、古くから成城にお住まいの方なら、伝言板やコインロッカーの様子を懐かしくご覧になったであろう)。
アメフトの試合で首の骨を折り、主人公が自滅していくという結末も実にこの時代の映画らしく、井上堯之のテーマ曲が深い余韻を残す役割を果たしている。
その後もしばしば成城の街に現れたショーケン。マカロニ刑事に扮した人気テレビドラマ「太陽にほえろ!」(72〜73年)では、第一話から仙川沿いのアパートを張り込み。探偵事務所の調査員に扮した「傷だらけの天使」(74〜75年)でも、相棒の水谷豊と共にいちょう並木や住宅街を聞き込んで歩くなど、多くの成城ロケ作品(註7)を残している。
(註1)ザ・タイガースとともに、東宝にとって最後の‶頼みの綱〟的存在だったザ・ドリフターズ、コント55号の主演映画も手がけた和田嘉訓監督は、『ドリフターズですよ! 前進前進また前進』(67年)や『コント55号 世紀の大弱点』(68年)でも成城・大蔵ロケを敢行。前者では、旧成城警察署と『ウルトラQ』で一の谷研究所となった龍野邸、後者では、成瀬巳喜男監督の『女の歴史』(63年)でもロケ地となった大蔵団地や世田谷通りの様子を見ることができる。
(註2)生け垣と樹木に囲まれたこの平屋建て住宅は、成城に建つ家の典型的スタイル。のちにマンション「Sコンド」となり、榊原るみ主演の「気になる嫁さん」(71〜72年)や山口百恵・松田優作共演の「赤い迷路」(74〜75年)など、テレビドラマのロケ地として重宝されることに
(註3)小橋玲子の本作起用は、朝の情報番組「ヤング720」(67年~:TBS)での人気沸騰を受けてのものと思われる。同時期に出演の「怪奇大作戦」(68〜69年:円谷プロ・TBS)でもキュートな魅力をふりまいた小橋だが、1974年以降のメディア登場歴は確認できない。
(註4)ここでは、CMに出ていた某社のミルクチョコレートをジュリーが小橋に渡すという、粋な気配り(タイアップ?)が見られる。
(註5)東京映画の撮影所(世田谷区船橋三丁目:森繁久彌邸の隣地にあった)からも程近い、当ガスタンク前でショーケンが歌うのは「エメラルドの伝説」。
(註6)大学1年生だった筆者はこのロケを目撃。これが成城ロケ映画を探し求めていくきっかけとなる。
(註7)これらの作品に成城・砧・大蔵ロケが多いのは、撮影スタジオが隣町、砧の国際放映だったからであろう。他のGSでは、ヴィレッジ・シンガーズ(二人のメンバーが成城大学出身)とザ・ダーツが『思い出の指輪』(68年)、ザ・ワイルドワンズが同じ斎藤耕一監督の『愛するあした』(69年)で、成城のキャンパスやいちょう並木に姿を見せている。
高田 雅彦(たかだ まさひこ)
1955年1月、山形市生まれ。生家が東宝映画封切館の株主だったことから、幼少時より東宝作品に親しむ。黒澤映画、クレージー映画、特撮作品には特に熱中。三船敏郎と植木等、ゴジラが三大アイドルとなる。大学は東宝撮影所に程近いS大を選択。卒業後はライフワークとして、東宝作品を中心とした日本映画研究を続ける。現在は、成城近辺の「ロケ地巡りツアー」講師や映画講座、映画文筆、クレージー・ソングのバンドでの再現を中心に活動。著書に『成城映画散歩』(白桃書房)、『三船敏郎、この10本』(同)、『七人の侍 ロケ地の謎を探る』(アルファベータブックス)、近著として『今だから! 植木等』(同/2022年1月刊)がある。