22.10.26 update

第20回 成瀬巳喜男作品に成城の風景を見つける

 以降、東宝で映画を撮り続け、巨匠というより‶名匠〟の称号がよく似合う監督に昇りつめた成瀬。かの黒澤明をして、「成瀬さんには敵わない」(青柳信雄監督との酒席でいつも語っていた言葉)と言わしめた成瀬巳喜男(註3)。その作品の中に、いくつか成城の風景が見つけられるのをご存知だろうか?

 まずは、高峰秀子主演の『女の歴史』(63年)。高峰にとっては十五作目の成瀬映画となる。日中戦争期から現在(昭和38年)に至る一人の女の「一代記」とでもいうべき本作は、成瀬映画としては語られることの少ない作品で、演じた高峰自身「やっていて本当につまらなかった」と述懐しているほど。しかしながら本作は、『七人の侍』の村が設営された大蔵地区に建てられた大蔵住宅(通称「大蔵団地」)や、世田谷通りの新道が見られることで、東宝映画=成城ロケ映画を語るうえでは欠かすことのできない作品となっている。

完成間近の世田谷通り新道
同地の現在(筆者撮影)

 主人公の高峰は、三代に亘って男たち(舅、夫、子供)に先立たれる、という悲劇のヒロイン。あまりに長い(二十五年に亘る)時間軸で物語が進むことから、ほとんど感情移入ができぬまま終幕を迎えるこの映画、注目すべきは交通事故に巻き込まれて死んだ息子(山崎努)の結婚相手(星由里子)と対峙する場面である。
 黒澤映画ほどではないものの、強烈な雨が降る中、二人は星が住む団地(これが大蔵団地11号棟)脇の坂道で顔を合わせる。高峰が「あんたの顔なんか見たくない」と息子の嫁を拒絶すると、星は「子供は堕す」と言い、憤然と義母のもとを去る。雨の中、泣きながら追いかけてきて暴言を詫びる高峰に、やがて星も義母を許す、という展開は、東京五輪前に開通しようと工事を終えたばかりの、世田谷通りバイパス新道の舗道にて展開される。
 バックに見えるのは、建てられて間もない大蔵団地23号棟(註4)。画面からは道路が未舗装であることが見て取れるので、撮影時、新道はまだ開通していなかったのであろう(註5)。それにしても、団地の雰囲気が今よりもはるかにモダン(まるでフランス映画!)に感じられるのは、いったい何ゆえか?

高峰と星が対峙する大蔵団地23号棟前の坂道(筆者撮影)
 
印象的な女像が建つ同11号棟。現在は解体され、存在しない(筆者撮影)

1 2 3 4

映画は死なず

新着記事

  • 2024.06.14
    創建1200年記念 特別展「神護寺─空海と真言密教...

    応募〆切:7月15日(月)

  • 2024.06.14
    実話をもとに描かれた、海の男たちの誇りと絆の戦争秘...

    応募〆切:6月25日(火)

  • 2024.06.14
    自然写真家・今森光彦のライフワークの集大成、「今森...

    6月20日(木)~9月29日(日)

  • 2024.06.13
    三浦友和&山口百恵の二人を結んだ楽曲?! 松崎しげ...

    「愛の微笑み」から改題された

  • 2024.06.11
    マニフレックス公式HPの人気連載記事『暮らしのエッ...

    6月28日(金)~30日(日)

  • 2024.06.11
    田中邦衛、山本圭、加藤剛らが出演した社会派ドラマ「...

    日本を代表する彫刻家・佐藤忠良を父にもつ

  • 2024.06.10
    韓国500万人超えの大ヒットした、予測不能の海洋ク...

    応募〆切:7月10日(水)

  • 2024.06.06
    激動の20世紀を生きたあるの男の人生。〝世紀の小説...

    応募〆切:7月5日(金)

  • 2024.06.06
    八王子市夢美術館 特別展 「ルーヴル美術館の銅版画...

    応募〆切:6月30日(日)

  • 2024.06.06
    アカデミー賞Ⓡ 2度受賞の名優アンソニー・ホプキン...

    応募〆切:6月20日(木)

特集 special feature 

わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の  「芸業」

特集 わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の 「芸業...

棟方志功の誤解 文=榎本了壱

VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いなる遺産

特集 VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いな...

「逝ける映画人を偲んで2021-2022」文=米谷紳之介

放浪の画家「山下 清の世界」を今。

特集 放浪の画家「山下 清の世界」を今。

「放浪の虫」の因って来たるところ 文=大竹昭子

「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

特集 「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

「いい顔」と「いい顔」が醸す小津映画の後味 文=米谷紳之介

人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

特集 人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

わが母とともに、祐三のパリへ  文=太田治子

ユーミン、半世紀の音楽旅

特集 ユーミン、半世紀の音楽旅

いつもユーミンが流れていた 文=有吉玉青

没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、展覧会「萩原朔太郎大全」の旅 

特集 没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、...

言葉の素顔とは?「萩原朔太郎大全」の試み。文=萩原朔美

「芸術座」という血統

特集 「芸術座」という血統

シアタークリエへ

喜劇の人 森繁久彌

特集 喜劇の人 森繁久彌

戦後昭和を元気にした<社長シリーズ>と<駅前シリーズ>

映画俳優 三船敏郎

特集 映画俳優 三船敏郎

戦後映画最大のスター〝世界のミフネ〟

「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の流行歌 

昭和歌謡 「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の...

第一弾 天地真理、安達明、久保浩、美樹克彦、あべ静江

故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・木下惠介のこと

特集 故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・...

「つつましく生きる庶民の情感」を映像にした49作品

仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監督の信念

特集 仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監...

「人間の條件」「怪談」「切腹」等全22作の根幹とは

挑戦し続ける劇団四季

特集 挑戦し続ける劇団四季

時代を先取りする日本エンタテインメント界のトップランナー

御存知! 東映時代劇

特集 御存知! 東映時代劇

みんなが拍手を送った勧善懲悪劇 

寅さんがいる風景

特集 寅さんがいる風景

やっぱり庶民のヒーローが懐かしい

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

特集 アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

60年以上にわたる創造の全貌

東京日本橋浜町 明治座

特集 東京日本橋浜町 明治座

江戸薫る 芝居小屋の風情を今に

「花椿」の贈り物

特集 「花椿」の贈り物

リッチにスマートに、そしてモダンに

俳優たちの聖地「帝国劇場」

特集 俳優たちの聖地「帝国劇場」

演劇史に残る数々の名作生んだ百年のロマン 文=山川静夫

秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

特集 秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

役柄と素顔のはざまで

秋山庄太郎ポートレートの美学

特集 秋山庄太郎ポートレートの美学

美しきをより美しく

久世光彦のテレビ

特集 久世光彦のテレビ

昭和の匂いを愛し、 テレビと遊んだ男

加山雄三80歳、未だ青春

特集 加山雄三80歳、未だ青春

4年前、初めて人生を激白した若大将

昭和は遠くなりにけり

特集 昭和は遠くなりにけり

北島寛の写真で蘇る団塊世代の子どもたち

西城秀樹 青春のアルバム

特集 西城秀樹 青春のアルバム

スタジアムが似合う男とともに過ごした時間

「舟木一夫」という青春

特集 「舟木一夫」という青春

「高校三年生」から 55年目の「大石内蔵助」へ

川喜多長政 &かしこ映画の青春

特集 川喜多長政 &かしこ映画の青春

国際的映画人のたたずまい

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

特集 ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

監督と女優の二人三脚の映画人生

中原淳一的なる「美」の深遠

特集 中原淳一的なる「美」の深遠

昭和の少女たちを憧れさせた中原淳一の世界

向田邦子の散歩道

特集 向田邦子の散歩道

「昭和の姉」とすごした風景

あの人この人の、生前整理archives

あの人この人の、生前整理archives
読者の声
Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial
error: Content is protected !!