22.10.26 update

第20回 成瀬巳喜男作品に成城の風景を見つける

 それ以前の世田谷通りが、東宝撮影所旧正門前を通るほうの道(東宝争議の折、米軍の戦車がやってきた)だったことや、渋谷からやって来るバスの終点が「東宝前」だったことは遠い昔の話。撮影所があったことで、旧世田谷通りにはかつて多くの商店が立ち並び、かなりの賑わいを見せていたのだ。

旧世田谷通り。東宝撮影所正門前辺り 写真提供:春山啓子氏 画像処理:PaC TaIZ/岡本和泉
東宝正門前にあった俳優たちが集うカフェバー「マコト」 写真提供:春山啓子氏 画像処理:PaC TaIZ/岡本和泉

 続いて紹介する作品は、成瀬の遺作で、これを最高傑作に挙げる方も多い『乱れ雲』(67年)。司葉子と加山雄三による‶悲恋もの〟で、『女の歴史』、『ひき逃げ』(66年)に引き続いて交通事故をめぐる物語が展開される。それほどこの時代は、‶交通戦争〟が問題視されていて、映画のテーマにもなり得たわけである。
 通産省勤めの夫(土屋嘉男)がエリート商社マン(加山)の運転する車に轢かれて死亡、妻の司葉子は悲嘆にくれる。夫の葬儀が役所の寮で執り行われることになり、そこに加山が弔問に訪れる。当然ながら気まずい空気が流れるが、加山はひたすら贖罪の気持ち(慰謝料もだが)を表する。やがて再会を果たした青森の地で、この気持ちは愛情に変わっていくのだが、当然ながら‶禁断の愛〟が成就することはない。
 さて、この寮がある街並みは、どこからどう見ても成城に他ならない。今や、寮に見立てられたアパート(実は三和銀行の寮)は存在しないが、この並木道は成城二丁目を南北に走る桜並木なのだ。ところが、司が寮から出かけるときは、石原裕次郎旧邸(成城一丁目28番)、すなわち東宝撮影所の方に歩いていき、逆に加山が上司の中丸忠雄と弔問に訪れる際には、撮影所側から寮に向かってくるので、成城学園前駅は無視された格好である。

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映画は死なず

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