22.06.24 update

第6回 色気は何処から

人生百年時代――とはいえ、老いさらばえて100歳を迎えたくはない。
健康で生気みなぎるような日々を過ごせてこそ、ナイス・エイジングだ!
西洋医学だけでなく東洋医学、ホメオパシー、代替医療まで、
人間を丸ごととらえるホリスティック医学でガン治療を諦めない医師、
帯津良一の養生訓は、「こころの深奥に〝ときめき〟あれ」と説く。


帯津良一・86歳のときめき健康法
文=帯津良一

 私がセックスの対象として初めて意識したのは中学時代に観た『山の彼方に』の角梨枝子さんであることはこれまでにも再三述べて来たとおりである。

 現在でもその魅力は一向に褪せてはいない。一人で飲んでいるときなど、時々思い出しでは悦に入っている。ところが、ある時、彼女の写真を一枚も持ち合わせていないことに気がついたのである。急に欲しくなった。ところが、何処でどのようにして手に入れることができるのか皆目見当がつかないのである。

 ひょっとしてと思って、編集の仕事をしている友人に相談してみた。さすがに餅は餅屋である。彼女の顔写真を大きく変えて3枚ほど届けてくれた。じつにコケティッシュ(coquettish)である。大きな額に入れて一つは池袋のクリニックの廊下の壁に掛け、もう一つは川越の病院の自室の机の上に置いた。ただこれだけで私の日常生活の場のエネルギーは、かなり高まったのである。

 欲が出て彼女の動きが見たくなった。お願いすると、また『とんかつ大将』なるDVDがすぐに届いた。松竹大船製作所の作品で、公開は1952年2月。ということは私はまだ高校一年生。太平洋戦争が終わって、これまでの借りを返すかの如く、怒涛の如く押し寄せる洋画群に翻弄されていた時代である。とても日本映画までは気持ちが届かない。この映画も初めてである。

 原作は、あの「姿三四郎」の富田常雄。男を描かせたら人後に落ちない。監督は川島雄三。主役はなんと佐野周二である。これにはいささかおどろいた。私の記憶の中にある佐野周二は、鶴田浩二、佐田啓二、高橋貞二の青春三羽烏の陰にかくれたわき役だったからである。世代からいえば池部良、三船敏郎に近い存在であるが、この二人のようなスター性もない。

 ところがさにあらず。ここでは主役の孤高の外科医を見事に演じている。すっかり見直してしまったものである。外科医は外科医でも長屋住まい。近くに住む人々の間では「とんかつ大将」と呼ばれて親しまれている。全篇にあふれる下町情緒を彼の人柄が弥(いや)が上にも盛り上げているところがいい。

 そして、彼をめぐる3人の女性。近くの病院の跡取りで外科を専門とする女医さんを津島恵子さんが、浅草裏の飲み屋の「一直」の女主人に菊江を角梨枝子さんが、昔の恋人で今は佐野周二さんの友人の奥さんに納まっている女性を幾野道子さんが演じている。

 それそれがそれなりに魅力的であるが、お色気となるとなんといっても角梨枝子さんだ。飲み屋の女将だから、いつも和服だが、一挙手一投足というか立っているだけで色気がある。酔って佐野周二さんに抱きつところなど最高だ。一体、色気というのは何処からやって来るのだろう。今度は「山の彼方に」のDVDはが欲しくなった。

『夏子の冒険』で主演の角梨枝子さん(右)。原作は三島由紀夫、監督は中村登、1953年の作品から。左は桂木洋子さん。

 

おびつ りょういち
1936年埼玉県川越市生まれ。東京大学医学部卒業、医学博士。東京大学医学部第三外科に入局し、その後、都立駒込病院外科医長などを経て、1982年、埼玉県川越市に帯津三敬病院を設立。そして2004年には、池袋に統合医学の拠点、帯津三敬塾クリニックを開設現在に至る。日本ホリスティック医学協会名誉会長、日本ホメオパシー医学会理事長著書も「代替療法はなぜ効くのか?」「健康問答」「ホリスティック養生訓」など多数あり。その数は100冊を超える。現在も全国で講演活動を行っている。講演スケジュールなどは、https://www.obitsusankei.or.jp/をご覧ください。

こちらの記事もどうぞ
映画は死なず

新着記事

  • 2024.10.10
    森美術館「ルイーズ・ブルジョワ展:地獄から帰って来...

    応募〆切:10月31日(木)

  • 2024.10.10
    戦後日本映画界に颯爽と現れるや時代のヒーローとして...

    石原裕次郎「赤いハンカチ」

  • 2024.10.09
    都会の喧騒に佇むゲストハウスに集う人々の心温まるヒ...

    応募〆切:11月5日(火)

  • 2024.10.09
    10月14日の「鉄道の日」をはさんで、海老名のロマ...

    10月9日(水)~11月18日(月)

  • 2024.10.09
    女優・高峰秀子生誕100年、ウェディングドレス姿が...

    10月5日(土)~1月13日(月・祝)

  • 2024.10.08
    釈放当日─世紀の瞬間の舞台裏を撮った、1台のカメラ...

    応募〆切:10月20日(日)

  • 2024.10.08
    東京ステーションギャラリー「テレンス・コンラン モ...

    応募〆切: 10月31日(木)

  • 2024.10.08
    秋バラが間もなく見ごろを迎える「谷津バラ園」 谷...

    京成電車下町さんぽ「谷津」

  • 2024.10.07
    「世界の持続可能な観光地TOP 100選」第1位の...

    箱根彩彩

  • 2024.10.03
    令和の今もコーラスで親しまれるH2Oが昭和58年リ...

    H2O「想い出がいっぱい」

特集 special feature 

わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の  「芸業」

特集 わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の 「芸業...

棟方志功の誤解 文=榎本了壱

VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いなる遺産

特集 VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いな...

「逝ける映画人を偲んで2021-2022」文=米谷紳之介

放浪の画家「山下 清の世界」を今。

特集 放浪の画家「山下 清の世界」を今。

「放浪の虫」の因って来たるところ 文=大竹昭子

「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

特集 「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

「いい顔」と「いい顔」が醸す小津映画の後味 文=米谷紳之介

人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

特集 人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

わが母とともに、祐三のパリへ  文=太田治子

ユーミン、半世紀の音楽旅

特集 ユーミン、半世紀の音楽旅

いつもユーミンが流れていた 文=有吉玉青

没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、展覧会「萩原朔太郎大全」の旅 

特集 没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、...

言葉の素顔とは?「萩原朔太郎大全」の試み。文=萩原朔美

喜劇の人 森繁久彌

特集 喜劇の人 森繁久彌

戦後昭和を元気にした<社長シリーズ>と<駅前シリーズ>

映画俳優 三船敏郎

特集 映画俳優 三船敏郎

戦後映画最大のスター〝世界のミフネ〟

「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の流行歌 

昭和歌謡 「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の...

第一弾 天地真理、安達明、久保浩、美樹克彦、あべ静江

故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・木下惠介のこと

特集 故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・...

「つつましく生きる庶民の情感」を映像にした49作品

仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監督の信念

特集 仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監...

「人間の條件」「怪談」「切腹」等全22作の根幹とは

挑戦し続ける劇団四季

特集 挑戦し続ける劇団四季

時代を先取りする日本エンタテインメント界のトップランナー

御存知! 東映時代劇

特集 御存知! 東映時代劇

みんなが拍手を送った勧善懲悪劇 

寅さんがいる風景

特集 寅さんがいる風景

やっぱり庶民のヒーローが懐かしい

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

特集 アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

60年以上にわたる創造の全貌

東京日本橋浜町 明治座

特集 東京日本橋浜町 明治座

江戸薫る 芝居小屋の風情を今に

「芸術座」という血統

特集 「芸術座」という血統

シアタークリエへ

「花椿」の贈り物

特集 「花椿」の贈り物

リッチにスマートに、そしてモダンに

俳優たちの聖地「帝国劇場」

特集 俳優たちの聖地「帝国劇場」

演劇史に残る数々の名作生んだ百年のロマン 文=山川静夫

秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

特集 秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

役柄と素顔のはざまで

秋山庄太郎ポートレートの美学

特集 秋山庄太郎ポートレートの美学

美しきをより美しく

久世光彦のテレビ

特集 久世光彦のテレビ

昭和の匂いを愛し、 テレビと遊んだ男

加山雄三80歳、未だ青春

特集 加山雄三80歳、未だ青春

4年前、初めて人生を激白した若大将

昭和は遠くなりにけり

特集 昭和は遠くなりにけり

北島寛の写真で蘇る団塊世代の子どもたち

西城秀樹 青春のアルバム

特集 西城秀樹 青春のアルバム

スタジアムが似合う男とともに過ごした時間

「舟木一夫」という青春

特集 「舟木一夫」という青春

「高校三年生」から 55年目の「大石内蔵助」へ

川喜多長政 &かしこ映画の青春

特集 川喜多長政 &かしこ映画の青春

国際的映画人のたたずまい

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

特集 ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

監督と女優の二人三脚の映画人生

中原淳一的なる「美」の深遠

特集 中原淳一的なる「美」の深遠

昭和の少女たちを憧れさせた中原淳一の世界

向田邦子の散歩道

特集 向田邦子の散歩道

「昭和の姉」とすごした風景

あの人この人の、生前整理archives

あの人この人の、生前整理archives
読者の声
Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial
error: Content is protected !!