人生百年時代――とはいえ、老いさらばえて100歳を迎えたくはない。
健康で生気みなぎるような日々を過ごせてこそ、ナイス・エイジングだ!
西洋医学だけでなく東洋医学、ホメオパシー、代替医療まで、
人間を丸ごととらえるホリスティック医学でガン治療を諦めない医師、
帯津良一の養生訓は、「こころの深奥に〝ときめき〟あれ」と説く。
帯津良一・86歳のときめき健康法
文=帯津良一
当年とって86歳。最近とみに気になる想いがあります。それは江戸時代に臨済宗中興の祖といわれた白隠禅師の逸話です。白隠禅師といえば呼吸法。その流れを汲む調和道丹田呼吸法に40年以上も親しみ、第三代の会長を17年間も務めたというご縁で白隠さんが大好きなのです。
その気になる逸話とはどのような逸話でしょう。『白隠禅師 健康法と逸話』(直木公彦、日本教文社)から引用させていただきます。題して「女性に抱かれて安眠」。
禅師84歳の11月のことです。近村の諸寺にて遊説数日間のお説法につとめられ、非常にお疲れが目にあまり、ある僧が「どうかお病気を治されるために、安住してお休み下さい」と申し上げたのですが、禅師は、多くの人々が法に飢えているのを愁いて、その申し出にいささか御怒りのようで、御不満の様子でした。
以下は古文ですので、私の意訳をもって代えます。
そんなときに、どういう経緯かはわかりませんが、40歳くらいのふくよかな女性が登場します。そして白隠さんにこう言います。
「多くの人が法に飢えているからこそ申し上げるのです。少し休んで、体調を調えてから法をお説き下さい」
このときの白隠さんの返答が振るっているのです。
「汝我を懐にして熟睡して一覚せしめればすなわち法施(ほうせ)を開かんと」
添い寝をしてくれればゆっくり眠れる。目が覚めたら法を説こうじゃないか。
そのあとが好いのです。
女子即ち臥内に入り懐抱温煖す。
そのふくよかな女性は夜具の中に入って、白隠さんをしっかり抱き締めたのです。
好いですね。
ふくよかな女性の胸の中で大いびきをかいて眠り、目を覚ますと別人のように元気になって、説法を再開しました、
と。そして、
これは禅師が昇天なさる一ケ月前の出来事なのです。
何と人間臭(しゅう)にみち、かつ白隠さんらしい法行(ほうぎょう)の一コマではありませんか。と結んでいます。
じつに色気のある話ですね。死ぬ一ケ月前ではなくてもよいから、そろそろ体験してみたいものですね。お相手の女性となると意中の人が無いわけではありませんが、スクリーン上に思いを馳せると、『にがい米』のシルヴァーナ・マンガーノ、『キリマンジェロの雪』のエヴァ・ガードナー、『河の女』のソフィア・ローレンなど枚挙に遑(いとま)がありませんが、死ぬ前の一ケ月の只一回となると、内に知性と人生の悲哀を秘めながら大いなる色気を醸し出している『リオ・グランデの砦』のモーリン・オハラでしょうか。
おびつ りょういち
1936年埼玉県川越市生まれ。東京大学医学部卒業、医学博士。東京大学医学部第三外科に入局し、その後、都立駒込病院外科医長などを経て、1982年、埼玉県川越市に帯津三敬病院を設立。そして2004年には、池袋に統合医学の拠点、帯津三敬塾クリニックを開設現在に至る。日本ホリスティック医学協会名誉会長、日本ホメオパシー医学会理事長著書も「代替療法はなぜ効くのか?」「健康問答」「ホリスティック養生訓」など多数あり。その数は100冊を超える。現在も全国で講演活動を行っている。講演スケジュールなどは、https://www.obitsusankei.or.jp/をご覧ください。