21.06.30 update

第1回 プロローグとしての私小説的映画体験

1954年に公開された『新諸国物語 笛吹童子 第一部 どくろの旗』。子供向けラジオドラマとして人気を博していた北村寿夫原作のNHK連続放送劇に着目し、51年に創立して間もない東映が映画化したヒットシリーズの一作。『新諸国物語』シリーズには他にも「黄金孔雀城」「七つの誓い」「紅孔雀」などのシリーズがあり、中村錦之助、東千代之介、大川橋蔵、伏見扇太郎らの若手スターたちが活躍する場となり、知恵蔵、右太衛門らによる大人の時代劇と合わせて時代劇王国としての地位を築くことになる。だが、このシリーズは〝東映娯楽版〟と銘打たれ、新作2本立の製作配給の併映作品としての、あくまでも本編の添え物だったが、竜が空を飛んだり、さまざまな妖術シーンなどの特撮が見せ場で、製作費もかかったに違いない。だが、それを超える大ヒット作となり、東映黄金時代を迎えることになる。©東映

 1950年代の東映は、中村錦之助(後の萬屋錦之介)、東千代之介主演の『新諸国物語 笛吹童子』などの子供向けの連続活劇シリーズ、右太衛門、片岡千恵蔵、大友柳太郎、大川橋蔵、錦之助主演の大人の時代劇で、時代劇王国の地位を確立し、日本初の長編カラーアニメ映画『白蛇伝』で、日本アニメ映画の基礎を築き、57年の『鳳城の花嫁』では東映シネマスコープを導入し、ワイドスクリーン時代を日本映画に招聘するなど、急速な発展を見せ、邦画界を牽引し、独走態勢に入るほどの勢いだった。東映全盛時代と言えるだろう。東映以外で観ていたのは東宝の『ゴジラ』くらいだった。

 中学生になると、姉の影響で『ウエスト・サイド物語』や、スタンリー・キューブリック監督の『スパルタカス』など、中学生になると字幕が読めるようになったこともあって洋画が多くなった。アメリカ映画ってすごいなと思い、すっかり洋画にハマった。背伸びして通を気取り難解そうな作品も観たものだ。邦画だと黒澤明監督の『用心棒』や『椿三十郎』に夢中になった。東映の舞うような殺陣とは違う豪快な殺陣に魅せられ東映から離れてしまった。加山雄三の『若大将シリーズ』も好きでよく観た。再び東映映画を観るようになったのは高校生になってからで、鶴田浩二や高倉健主演の任俠映画だった。大学時代も仕送りが届くと兄と一緒に映画館に通った。

 私が入社した年の大卒の新入社員は8人で、高卒が16人だった。東映で何がやりたいということはなく、ただ、赴任地が北海道支社であればよかった。どんな仕事をするのかもわからなかった。私たちの若い頃は、会社で何をやるのかは、会社が決めるものだと思っていた。東映人生も半世紀になるが、製作をやりたいとか、企画をやりたいとか、思ったことは実は一度もない。私にとっては今も、映画は作るより観るものである。北海道勤務を望んだのは、出身地だということもあるが母が病気で自宅療養中だった。札幌に好きな女の子が住んでいたこともある。北海道支社勤務ということだけで満足だった。1960年代に入ると、テレビの普及などにより映画界も斜陽化という時代が訪れる。61年には新東宝が製作を停止し、日活は69年には撮影所を売却し、71年にロマンポルノの製作に入った。71年には大映も大型倒産による終焉を迎えた。私はそんな時代に映画界へ入ることになった。東映はと言えば、映画不況が始まった頃から製作され、鶴田浩二、高倉健、藤純子などをスターダムに押し上げた『博徒』『日本俠客伝』『網走番外地』『昭和残俠伝』『緋牡丹博徒』などで一大ムーブメントを巻き起こした任俠映画が終焉のときを迎えようとしていた。72年の藤純子引退記念映画『関東緋桜一家』が任俠映画最後の輝きを放った。憧れの藤純子もこの作品を最後に引退し3月に東映を去り、入れ違いで私は4月に入社した。もちろん、会えるかもしれないという私のミーハー心はあえなく玉砕した。

 映画界斜陽の時代に東映はいかなる舵取りをするのか。つづきは次回で。

1 2

映画は死なず

新着記事

  • 2024.11.21
    「星影のワルツ」「北国の春」という2つの大ヒット曲...

    千昌夫「夕焼け雲」

  • 2024.11.20
    能登の子どもたちや被災者を、美しい音楽で励ましてく...

    被災者に勇気を与えるウイーン・フィルの活動

  • 2024.11.20
    指揮・坂本龍一✕東京フィルハーモニー交響楽団による...

    坂本龍一の伝説のコンサートを映画館で!

  • 2024.11.19
    ベートーヴェン「第九」初演から200周年の記念すべ...

    12月31日特別先行上映、1月3日から1週間限定公開!

  • 2024.11.19
    敷寝具から枕まで世界最大級の熟睡ブランド、〈マニフ...

    特別モデル【エコ サンドロ】限定3000台の予約開始!

  • 2024.11.18
    公募展の発祥地〈東京都美術館〉のテーマは「ノスタル...

    芸術活動を活性化させ、鑑賞の体験を深める

  • 2024.11.18
    女優「高峰秀子」と妻「松山秀子」─日本映画史に燦然...

    高峰秀子という生き方

  • 2024.11.15
    本格イタリアンをご家庭で、日清製粉ウェルナの「青の...

    応募〆切: 12月20日(金)

  • 2024.11.15
    京都のグンゼ博物苑で、昭和の激動時代の魅力を伝える...

    グンゼの創業の地で、「昭和レトロ展」

  • 2024.11.14
    「嵐」と並ぶシングル58曲連続トップテン入りを果た...

    THE ARFEE「メリーアン」

特集 special feature 

わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の  「芸業」

特集 わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の 「芸業...

棟方志功の誤解 文=榎本了壱

VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いなる遺産

特集 VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いな...

「逝ける映画人を偲んで2021-2022」文=米谷紳之介

放浪の画家「山下 清の世界」を今。

特集 放浪の画家「山下 清の世界」を今。

「放浪の虫」の因って来たるところ 文=大竹昭子

「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

特集 「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

「いい顔」と「いい顔」が醸す小津映画の後味 文=米谷紳之介

人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

特集 人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

わが母とともに、祐三のパリへ  文=太田治子

ユーミン、半世紀の音楽旅

特集 ユーミン、半世紀の音楽旅

いつもユーミンが流れていた 文=有吉玉青

没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、展覧会「萩原朔太郎大全」の旅 

特集 没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、...

言葉の素顔とは?「萩原朔太郎大全」の試み。文=萩原朔美

喜劇の人 森繁久彌

特集 喜劇の人 森繁久彌

戦後昭和を元気にした<社長シリーズ>と<駅前シリーズ>

映画俳優 三船敏郎

特集 映画俳優 三船敏郎

戦後映画最大のスター〝世界のミフネ〟

「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の流行歌 

昭和歌謡 「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の...

第一弾 天地真理、安達明、久保浩、美樹克彦、あべ静江

故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・木下惠介のこと

特集 故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・...

「つつましく生きる庶民の情感」を映像にした49作品

仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監督の信念

特集 仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監...

「人間の條件」「怪談」「切腹」等全22作の根幹とは

挑戦し続ける劇団四季

特集 挑戦し続ける劇団四季

時代を先取りする日本エンタテインメント界のトップランナー

御存知! 東映時代劇

特集 御存知! 東映時代劇

みんなが拍手を送った勧善懲悪劇 

寅さんがいる風景

特集 寅さんがいる風景

やっぱり庶民のヒーローが懐かしい

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

特集 アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

60年以上にわたる創造の全貌

東京日本橋浜町 明治座

特集 東京日本橋浜町 明治座

江戸薫る 芝居小屋の風情を今に

「芸術座」という血統

特集 「芸術座」という血統

シアタークリエへ

「花椿」の贈り物

特集 「花椿」の贈り物

リッチにスマートに、そしてモダンに

俳優たちの聖地「帝国劇場」

特集 俳優たちの聖地「帝国劇場」

演劇史に残る数々の名作生んだ百年のロマン 文=山川静夫

秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

特集 秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

役柄と素顔のはざまで

秋山庄太郎ポートレートの美学

特集 秋山庄太郎ポートレートの美学

美しきをより美しく

久世光彦のテレビ

特集 久世光彦のテレビ

昭和の匂いを愛し、 テレビと遊んだ男

加山雄三80歳、未だ青春

特集 加山雄三80歳、未だ青春

4年前、初めて人生を激白した若大将

昭和は遠くなりにけり

特集 昭和は遠くなりにけり

北島寛の写真で蘇る団塊世代の子どもたち

西城秀樹 青春のアルバム

特集 西城秀樹 青春のアルバム

スタジアムが似合う男とともに過ごした時間

「舟木一夫」という青春

特集 「舟木一夫」という青春

「高校三年生」から 55年目の「大石内蔵助」へ

川喜多長政 &かしこ映画の青春

特集 川喜多長政 &かしこ映画の青春

国際的映画人のたたずまい

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

特集 ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

監督と女優の二人三脚の映画人生

中原淳一的なる「美」の深遠

特集 中原淳一的なる「美」の深遠

昭和の少女たちを憧れさせた中原淳一の世界

向田邦子の散歩道

特集 向田邦子の散歩道

「昭和の姉」とすごした風景

あの人この人の、生前整理archives

あの人この人の、生前整理archives
読者の声
Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial
error: Content is protected !!