21.11.02 update

第4回 北海道支社でのセールス四方山話

  映画業界ならではのセールスということで言えば、昔は映画館は、封切館があり、続いて二番館、三番館というような映画館システムがあった。封切館で3週間やると、われわれ映画セールスたちの言葉では〝ストーン落ち〟といって二番館での上映となる。そうすると、たとえば東映の『網走番外地』と松竹の『男はつらいよ』と東宝の『子連れ狼』といった、昨日まで封切館でメイン作品として上映していた映画が二番館では3本立てで上映され、しかも入場料金も1本で800円だったのが、抱き合わせ3本立て200円とか300円になってしまう。入場料金も含めてストーンと落ちるから〝ストーン落ち〟と言っていた。 それがすごく理不尽に感じられた。昨日まで1本800円の料金がとれたのに、いきなり3本で200円、300円になるのだから、封切館での興行収入が見込めなくなってしまう 。

『柳生一族の陰謀』の大ヒットにより、再び萬屋錦之介を主役の大石内蔵助に迎え、1978年に公開された『赤穂城断絶』。東映では幾度となく製作された〝忠臣蔵〟映画だが、大石内蔵助役と言えば、片岡千恵蔵、市川右太衛門の両〝御大〟が演じてきた大役で、錦之介にとっては、まさに〝役者の本懐〟といった心持で臨んだに違いない。千葉真一、渡瀬恒彦、松方弘樹、岡田茉莉子、三田佳子、丹波哲郎、芦田伸介、三船敏郎、近藤正臣、原田美枝子ら、『柳生一族の陰謀』同様のオールスターキャストがスクリーンを彩り、敵役である吉良上野介は金子信雄が演じるあたりが、『仁義なき戦い』の深作欣二ならではのキャスティングだろうか。藩の断絶から討ち入りまでが〝実録〟ふうに描かれ、討ち入り時の不破数右衛門(千葉)と小林平八郎(渡瀬)の一騎打ちは、本作を盛り上げる。また、脱落していく浪士の一人である橋本平左衛門夫婦(近藤&原田)の死も壮絶であった。錦之介は翌年にもテレビドラマ「赤穂浪士」で、再び内蔵助を演じている。©東映


 79年に『トラック野郎』のシリーズ9作目のとき、二番館での上映の要請があったが、『トラック野郎』は集客の限界も見えてきていたので、ジャッキー・チェンの『ドランクモンキー 酔拳』はどうだろうと提案した。つまり、まだまだ勢いのある『酔拳』をつけて、新作の『下落合焼とりムービー』という山本晋也監督の全編パロディとナンセンス・ギャグの新作映画をつけてロードショー館に売るのだ。『下落合焼とりムービー』は新作の封切作品だから、通常のロードショーの料金をもらうという形をとったら、これが大当たりした。『酔拳』を〝ムーブオーバー〟して、つまり上映館を変えて、封切館と同じ入場料金で上映期間を延長させたわけだから、本社から評価された。そこから〝ムーブオーバー〟という手法が始まったのではなかったか。
〝ムーブオーバー〟をもう少し説明すると、当時札幌東映で上映していた『酔拳』は、公開から3週間経っているものの、まだまだ集客が見込めた。だが、札幌東映では、次の公開作品が決まっていたので、そのまま上映を続けるわけにはいかない。そこで、映画館を変えて上映を続ける。これが〝ムーブオーバー〟である。洋画系のロードショー館に『酔拳』を付けて新作『下落合焼とりムービー』を売ったのだ。『酔拳』は、公開から3週間経っているが新作の『下落合~』を付けることで、封切館で上映を続けることができる。
 実はメインは『酔拳』だ。映画館としては『酔拳』が欲しい。セールスとしては、『下落合~』だけを売ろうとすると売れない。そこで、『酔拳』を付けて『下落合~』を売る。映画館としても異論はない。本当に大当たりだった。これは北海道支社が発案したセールスの手法だった。『下落合~』の全国配収における北海道支社の割合がやたらと高かったことからも、〝ムーブオーバー〟という手法が効果的だったことは確かだろう。『下落合~』の興行収入にも効果を上げたということである。

 こうして当時を振り返ってみると、セールスのあれこれが思い出される。次回も今少し、北海道支社でのセールスの話におつきあい願いたい。

1 2 3

映画は死なず

新着記事

  • 2024.11.21
    「星影のワルツ」「北国の春」という2つの大ヒット曲...

    千昌夫「夕焼け雲」

  • 2024.11.20
    能登の子どもたちや被災者を、美しい音楽で励ましてく...

    被災者に勇気を与えるウイーン・フィルの活動

  • 2024.11.20
    指揮・坂本龍一✕東京フィルハーモニー交響楽団による...

    坂本龍一の伝説のコンサートを映画館で!

  • 2024.11.19
    ベートーヴェン「第九」初演から200周年の記念すべ...

    12月31日特別先行上映、1月3日から1週間限定公開!

  • 2024.11.19
    敷寝具から枕まで世界最大級の熟睡ブランド、〈マニフ...

    特別モデル【エコ サンドロ】限定3000台の予約開始!

  • 2024.11.18
    公募展の発祥地〈東京都美術館〉のテーマは「ノスタル...

    芸術活動を活性化させ、鑑賞の体験を深める

  • 2024.11.18
    女優「高峰秀子」と妻「松山秀子」─日本映画史に燦然...

    高峰秀子という生き方

  • 2024.11.15
    本格イタリアンをご家庭で、日清製粉ウェルナの「青の...

    応募〆切: 12月20日(金)

  • 2024.11.15
    京都のグンゼ博物苑で、昭和の激動時代の魅力を伝える...

    グンゼの創業の地で、「昭和レトロ展」

  • 2024.11.14
    「嵐」と並ぶシングル58曲連続トップテン入りを果た...

    THE ARFEE「メリーアン」

特集 special feature 

わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の  「芸業」

特集 わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の 「芸業...

棟方志功の誤解 文=榎本了壱

VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いなる遺産

特集 VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いな...

「逝ける映画人を偲んで2021-2022」文=米谷紳之介

放浪の画家「山下 清の世界」を今。

特集 放浪の画家「山下 清の世界」を今。

「放浪の虫」の因って来たるところ 文=大竹昭子

「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

特集 「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

「いい顔」と「いい顔」が醸す小津映画の後味 文=米谷紳之介

人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

特集 人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

わが母とともに、祐三のパリへ  文=太田治子

ユーミン、半世紀の音楽旅

特集 ユーミン、半世紀の音楽旅

いつもユーミンが流れていた 文=有吉玉青

没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、展覧会「萩原朔太郎大全」の旅 

特集 没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、...

言葉の素顔とは?「萩原朔太郎大全」の試み。文=萩原朔美

喜劇の人 森繁久彌

特集 喜劇の人 森繁久彌

戦後昭和を元気にした<社長シリーズ>と<駅前シリーズ>

映画俳優 三船敏郎

特集 映画俳優 三船敏郎

戦後映画最大のスター〝世界のミフネ〟

「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の流行歌 

昭和歌謡 「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の...

第一弾 天地真理、安達明、久保浩、美樹克彦、あべ静江

故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・木下惠介のこと

特集 故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・...

「つつましく生きる庶民の情感」を映像にした49作品

仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監督の信念

特集 仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監...

「人間の條件」「怪談」「切腹」等全22作の根幹とは

挑戦し続ける劇団四季

特集 挑戦し続ける劇団四季

時代を先取りする日本エンタテインメント界のトップランナー

御存知! 東映時代劇

特集 御存知! 東映時代劇

みんなが拍手を送った勧善懲悪劇 

寅さんがいる風景

特集 寅さんがいる風景

やっぱり庶民のヒーローが懐かしい

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

特集 アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

60年以上にわたる創造の全貌

東京日本橋浜町 明治座

特集 東京日本橋浜町 明治座

江戸薫る 芝居小屋の風情を今に

「芸術座」という血統

特集 「芸術座」という血統

シアタークリエへ

「花椿」の贈り物

特集 「花椿」の贈り物

リッチにスマートに、そしてモダンに

俳優たちの聖地「帝国劇場」

特集 俳優たちの聖地「帝国劇場」

演劇史に残る数々の名作生んだ百年のロマン 文=山川静夫

秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

特集 秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

役柄と素顔のはざまで

秋山庄太郎ポートレートの美学

特集 秋山庄太郎ポートレートの美学

美しきをより美しく

久世光彦のテレビ

特集 久世光彦のテレビ

昭和の匂いを愛し、 テレビと遊んだ男

加山雄三80歳、未だ青春

特集 加山雄三80歳、未だ青春

4年前、初めて人生を激白した若大将

昭和は遠くなりにけり

特集 昭和は遠くなりにけり

北島寛の写真で蘇る団塊世代の子どもたち

西城秀樹 青春のアルバム

特集 西城秀樹 青春のアルバム

スタジアムが似合う男とともに過ごした時間

「舟木一夫」という青春

特集 「舟木一夫」という青春

「高校三年生」から 55年目の「大石内蔵助」へ

川喜多長政 &かしこ映画の青春

特集 川喜多長政 &かしこ映画の青春

国際的映画人のたたずまい

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

特集 ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

監督と女優の二人三脚の映画人生

中原淳一的なる「美」の深遠

特集 中原淳一的なる「美」の深遠

昭和の少女たちを憧れさせた中原淳一の世界

向田邦子の散歩道

特集 向田邦子の散歩道

「昭和の姉」とすごした風景

あの人この人の、生前整理archives

あの人この人の、生前整理archives
読者の声
Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial
error: Content is protected !!