坂田晃一は、ドラマ「おしん」や「おんな太閤記」などの音楽を担当したほか、浅丘主演の日本テレビ系の多くのドラマ音楽を担当したことでも知られる。石橋冠演出の「2丁目3番地」「3丁目4番地」「冬物語」「さよなら・今日は」「二丁目の未亡人は、やせダンプといわれる凄い子連れママ」、鶴橋康夫演出の「新車の中の女」「炎の中の女」「渚の女」などなど。「2丁目3番地」の主題歌は赤い鳥が歌った「目覚めたときには晴れていた」(「二丁目の未亡人~」では同曲を伝書鳩が歌った)、フォー・クローバースが歌った「冬物語」、「さよなら・今日は」の主題歌「愛の伝説」(歌唱はまがじん)、挿入歌「さよなら、今日は」(歌唱は朝倉理恵)など、都会的な流麗な旋律が、クールでシャープな浅丘のドラマにフィットしたのだろう。同じく日本テレビ系の西田敏行主演の人気ドラマ「池中玄太80キロ」では、西田が歌う「もしもピアノが弾けたなら」や、杉田かおるの「鳥の詩」も誕生させた。
ビリー・バンバンは、菅原孝・進の兄弟デュオで、69年にフォーク調の「白いブランコ」でキングレコードからメジャーデビューした。72年発売の「さよならをするために」は約80万枚を売り上げ、「白いブランコ」以来の大ヒットとなり、NHK紅白歌合戦に初出場した。72年の紅白歌合戦は、5回紅組司会を務めた佐良直美が初めて司会を担当した回で、天地真理、欧陽菲菲、野口五郎、「北国行きで」の朱里エイコ、「夜明けの停車場」の石橋正次、「太陽がくれた季節」の青い三角定規らが初出場している。また、GS時代には出場できなかった沢田研二が「許されない愛」でソロとして初出場したのも、この年だった。ちなみにザ・タイガースとしての紅白出場は、89年まで待たねばならなかった。
また、ビリー・バンバンと言えば、86年から30年以上にわたり手がけている、<大分麦焼酎・いいちこ>のCMソングを通して歌声を認識している人も多いかもしれない。2007年に31枚目のシングルとしてリリースされた「また君に恋してる」は、同年9月から<いいちこ>のCMソングとしてオンエアされた。その後、2008年からは、坂本冬美バージョンがオンエアされ、翌年には坂本自身もシングルリリースし、ヒットさせた。
ストリングスのイントロと兄弟デュオのさわやかなハーモニーが印象的な「さよならをするために」は、86年以降には高等学校の音楽の教科書にも何度か掲載されており、小柳ルミ子、岩崎宏美、中森明菜、髙橋真梨子、松山千春、島倉千代子、ザ・ピーナッツ、倍賞千恵子、珍しいところでは渡辺謙など、多くの歌手にカバーされている。桑田佳祐も、2008年に「昭和八十三年度ひとり紅白歌合戦」で、歌っている。
2014年に兄・孝が脳出血で倒れ、左半身麻痺が残り、声もうまく出せない状態だったが、リハビリを続け仕事復帰を果たし、テレビの歌謡番組で、浅丘ルリ子と一緒に「さよならをするために」をデュエットしているのを聴いたとき、やはり、歌い継がれる曲の1つなのだと認識した。現在のように、ドラマ主題歌を人気アーティストが担当するのが話題になる時代ではなかったが、ドラマと共に観る人の耳に、心に今も残る名曲があった。
文=渋村 徹 イラスト=山﨑杉夫