23.06.08 update

【わが昭和歌謡はドーナツ盤】ザ・ベストテンの「今週のスポットライト」でブレイクした、八神純子の「みずいろの雨」

「今聴きたい昭和の名曲!レジェンド18選 歌手別No.1ソング」(テレビ朝日系)で久しぶりに、「みずいろの雨」を歌う八神純子を目にした。司会の高橋英樹も絶賛していたが、40年前とまったく変わらない歌声に驚いた。この日はバックバンドを従えての歌唱だったが、高音の伸びは若いころのまま、いやもっと艶っぽく、歌の世界が深まっているように感じた。

 初めて八神純子の「みずいろの雨」を聴いたのは、TBSテレビ「ザ・ベストテン」の「今週のスポットライト」のコーナーだったと思う。ピアノの弾き語りをしながら、口に加えたサンバホイッスルを吹く姿が強烈で、さらに透き通ったパワーあふれる歌声、どこまでも突き抜けて行くような高音の響きに圧倒された。放送の翌日、「笛を吹いて歌うお姉さん、すごいね」と友人と会話したことを思い出す。

 1978年(昭和53)1月19日に始まった「ザ・ベストテン」は、毎週木曜日、夜9時からの放送だった。黒柳徹子と久米宏のテンポのいい司会で、生放送ならではのハプニングや、カシャカシャと音をさせながら回転する順位ボードの数字が止まる瞬間に緊張感があった。歌謡曲もあれば、演歌、ポップス、ロックと幅広く、ランキングした歌手の追っかけなどもあって、毎週楽しみにしていたものだ。「今週のスポットライト」は、これから脚光を浴びそうな注目の曲を先取りして紹介するもので、初回は、フランク永井と松尾和子の「東京ナイトクラブ」、翌週は、五木ひろしの「夜空」、3回目は水谷良重「私はいけない女でしょうか」、4回目は平尾昌晃と畑中葉子の「カナダからの手紙」と続く。いつの間にか「スポットライトのコーナーで歌えばヒット間違いない」というジンクスが作られていった。

 八神純子もこのコーナーに、「みずいろの雨」で初出演を果たした。78年10月19日の放送だ。「みずいろの雨」も出演の一ケ月後には第9位で初登場。その後最高2位まで浮上し、結果的にはセールス60万枚を記録したのだ。

「ザ・ベストテン」で突然現れたような印象があったが、八神はヤマハポピュラーソングコンテスト(ポプコン)の出身で、74年開催の第8回大会に16歳で出場。「雨の日のひとりごと」は最優秀曲に入賞し、シングルリリースされた。翌年も「幸せの国へ」でポプコン出場。同じ大会に出場していた外国人アーティストに誘われ、海外での音楽祭やコンテストにも出場し、チリの音楽祭でも入賞するという実力の持ち主だった。

 78年1月5日の20歳の誕生日に「思い出は美しすぎて」でプロ歌手として本格デビュー。そこそこのヒットだったが次の楽曲「さよならの言葉」は低迷した。背水の陣でシングル5曲目となる「みずいろの雨」を78年9月5日リリース。作詞は三浦徳子、作曲は八神、編曲は大村雅朗だった。三浦は、「想い出のスクリーン」「ポーラー・スター」「甘い生活」「パープルタウン~You Oughta Know By Now~」と連続5枚のシングルをリリースし、いずれも八神の代表作となっている。編曲の大村は、「みずいろの雨」で一躍注目を浴び、山口百恵「謝肉祭」、吉川晃司「モニカ」、大沢誉志幸「そして僕は途方に暮れる」、渡辺美里「My Revolution」などの編曲を担当、ヒットを飛ばしている。83年松田聖子の「SWEET MEMORIES」では、25回日本レコード大賞で編曲賞を受賞した。残念なことに97年46歳という若さで亡くなった。作詞家の松本隆も、「僕の詞で、大村さんがサウンドをメイクすれば、誰の曲であってもちゃんと世界が作れた」と言わしめるほど、絶大な信頼を寄せていた人物だった。
 作詞の三浦にも、編曲の大村にも「みずいろの雨」は出世作になった。作詞、作曲、編曲が秀逸、加えて八神の抜群の歌唱力である。40年経っても全く古さを感じさせないのも名曲の証だろう。

 その後八神は86年イギリス人音楽プロデューサーと結婚し、ロサンゼルスに拠点を移し、子育てを優先しながら歌手活動を続けていた。ところが、2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件が発生、その後親しい友人家族を銃殺で失うというショッキングな事件が重なり、日米を行き来してコンサートを行うことができなくなってしまった。
 ところが、11年3月11日の東日本大震災の惨状を目にした八神は立ち上がった。子どもたちも八神に歌うことを勧める。「東北に行って被災者たちと今を生きよう」と急遽帰国。被災地で炊き出しやライブ活動を行い、震災復興のために特別に作詞作曲した「翼」という曲も披露した。また16年の熊本地震の後も、阿蘇神社を訪れ復興コンサートを行った。

 高音域でも気持ちよさそうに平然と歌う姿に見とれたが、歌で多くの人を勇気づけたいという八神の生き方がより楽曲に深みを増しているのだと改めて感じた。

 2022年には、米国東部メリーランド州の音楽団体「女性ソングライターの殿堂」で受賞の栄誉に浴した。米国では70~80年代に日本で流行した「シティーポップ」ブームで八神の代表曲「黄昏のBAY CITY」がYouTubeで1000回以上再生されたことや、米国の活動拠点があることなども考慮されたようだ。名曲は世代や人種を超えて残るものなのだろう。いつまでも素晴らしい歌声を響かせてもらいたい。

文=黒澤百々子 イラスト:山崎杉夫

 

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