23.11.09 update

〝ルリ子ブーム〟が巻き起こった1969年、「愛するって耐えることなの」も流行語になった大ヒット曲 浅丘ルリ子「愛の化石」

 NHKもこの〝ルリ子ブーム〟には、目をつけたようで、70年1月から、浅丘ルリ子主演で、五木寛之原作『朱鷺の墓』を連続ドラマ化している。しかも演出は、「竜馬がゆく」以来、浅丘ルリ子にぞっこんの和田勉が手がけ、相手役として大河ドラマ「太閤記」で織田信長を演じ人気が沸騰した高橋幸治がロシア人役でルリ子と初共演するということで、新聞、雑誌などメディアでの取り上げ方も尋常ではなかった。杉村春子、辰巳柳太郎、森雅之、宇野重吉、田村正和、奈良岡朋子ら豪華な顔ぶれのドラマで話題をさらった。

「愛の化石」がリリースされた69年の歌謡界と言えば、最大のヒット曲は由紀さおりの「夜明けのスキャット」だった。この曲も「ルルル……ラララ……パパパ……アアア……」と、ほとんどがスキャットで綴られる歌だった。いしだあゆみ「ブルー・ライト・ヨコハマ」、青江三奈「池袋の夜」、森山良子「禁じられた恋」、弘田三枝子「人形の家」、小川知子「初恋のひと」など、女性歌手のヒット曲が歌謡界を席巻したという印象の一年だった。レコード大賞を受賞したのも佐良直美「いいじゃないの幸せならば」である。ちなみに最優秀新人賞は、ピーターの「夜と朝のあいだに」が受賞。
 浅丘ルリ子は、この年から12月31日にTBS系列で生中継による全国放送が始まった「日本レコード大賞」の発表受賞音楽会の司会を、昭和の名アナウンサー高橋圭三と共に務めた。さらにはNHK紅白歌合戦の審査員も、市川海老蔵(後の團十郎)、平幹二朗(翌年の大河ドラマ「樅ノ木は残った」の主役)らと共に務め、大晦日に、レコ大の会場帝国ホテルから、紅白の会場宝塚劇場へと数分間で移動することになった。「愛の化石」の大ヒットを考えると、今の時代なら話題性の面からも歌手として紅白に出場していたに違いないと思える。翌70年には田宮二郎、高橋悦史共演で映画化もされている。映画の公開に先駆けて、東京の某百貨店では「愛の化石ルック」を特設し、ルリ子が映画で着用する同じプレタポルテを販売し、大きな売れ行きにつながったという。かように、この時期の浅丘ルリ子の人気には、ファンの間でも、クリエイターたちの間でも、すさまじいものがあった。

 私事で恐縮だが、2009年に浅丘ルリ子さんからディナーショーでのトークのお相手を仰せつかったことがあった。このとんでもない申し出に、ただただ驚くばかりで、僕のような裏方の人間が出る場所ではないと固辞し続けたが、当方からの取材の申し出には、毎回快く応えていただいていることを思うと、そうそうわがままを通すわけにもいかなかった。ルリ子さんは、僕がノータイで現れるのを見透かしていて、僕のためにネクタイを数本用意してくださっていた。「ディナーショーでお客様もおしゃれをしていらしているのだから、ネクタイをしましょう」ということだった。ステージに登場する直前、緊張している僕に、ルリ子さんは思い切り背中をたたいて「これで大丈夫、さあ行きましょう」と言ってくれた。
 こうなったらと腹をくくり、訊きたいことをぶつけてみようと、日活での仲間たちである裕次郎、旭、赤木圭一郎、芦川いづみ、吉永小百合に加え、長谷川一夫、勝新太郎、三船敏郎、萬屋錦之介、加山雄三、蜷川幸雄、山田洋次監督、市川崑監督、岸惠子、若尾文子、佐久間良子、岩下志麻、森光子、大原麗子、倍賞千恵子、菅原文太、高倉健、渥美清など、一緒に仕事をしたお仲間のことを、あれこれと話していただいた。
 そして、トークの後、ルリ子さんが「愛の化石」を歌った。ルリ子さんの生歌! これは僕に向かって歌ってくれているのだと勝手に思い込み、ポーッとなっていた。決して忘れることのない、僕の一生の想い出となった。浅丘ルリ子は、どこまでも完璧に女優だった。そして、僕は高校入試の受験勉強よりも、音楽や映画に夢中になっていた15歳の頃にもどっていた。

文=渋村 徹 イラスト:山﨑杉夫

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