歌手としての活躍に話を戻すと、デビュー以降、前述の曲の他にも「恋人をさがそう」、浜口庫之助作詞・作曲「願い星叶い星」、自ら作詞・作曲を手がけた「月のしずく」、「友達の恋人」、「海はふりむかない」など、いくつものヒット曲がある。どちらかと言えば、ポップス系の曲に西郷の歌手としての資質が活かされていたが、70年にリリースした「真夏のあらし」、それに続く「情熱」、「掠奪」、「愛したいなら今」では、エルビス・プレスリーばりに、さらにロック・ポップス色を前面に打ち出し、西郷の本質的な魅力を花開かせることになった。作詞はいずれも阿久悠で、「真夏のあらし」では川口真がレコード大賞作曲賞を受賞した。川口は「二人の銀座」や「北国の青い空」などザ・ベンチャーズ作曲作品の編曲を担当し、弘田三枝子「人形の家」、由紀さおり「手紙」、金井克子「他人の関係」、夏木マリ「絹の靴下」などの作曲でも、歌謡曲の歴史にその名を刻んでいる。
数あるヒット曲の中から、西郷輝彦のこの1曲を挙げるならば、やはり66年に26枚目のシングルとしてリリースした「星のフラメンコ」ではないだろうか。作詞・作曲は浜口庫之助。トランペット・ソロから始まりドラム、フラメンコギター、カスタネットが重なるイントロ。西郷は、脚の長さが際立つマタドールを思わせる丈が短めのメスジャケットの衣装で、フラメンコ・ダンスのポーズをとる。西郷らしい華やかなステージが展開される。そして最後「フ・ラ・メ・ン・コ~~~」と、必要以上に技巧を凝らすことなく声をストレートに伸ばしきる歌唱。特に「メ」の後の声の伸びは色気を感じさせる。まさしく、西郷輝彦のために作られた曲である、と納得させられる。同年に台湾ロケを敢行した映画も公開され、妹役で松原智恵子が共演している。もちろん紅白歌合戦でもトップバッターで登場し披露した。
紅白歌合戦には初出場から73年まで連続10回出場しているが、最後となる10回目の出場時に歌ったのも「星のフラメンコ」だった。西郷輝彦のデビュー時から、「ロッテ歌のアルバム」、「歌のグランプリ」などテレビの歌謡番組を通してその歌声になじんできた僕にとっては、西郷輝彦は、俳優というより歌手として今でも記憶にインプットされている。
先日、CS放送のチャンネルNECOで、舟木一夫、三田明、西郷輝彦の3人が〝青春歌謡BIG3〟として一緒に2014年に1年間コンサート・ツアーを実施した折の東京・八王子でのコンサートの模様が再放送されていた。コンサートのラスト近く、互いの持ち歌を交換して披露する姿からは、ライバルとして、同士として同じ時代を生き抜いた3人ならではの強い絆のようなものが垣間見られた。西郷輝彦の55周年記念の中野サンプラザでのコンサートが実現していたら、どんなステージを見せてくれたのだろうか。そして、ゲストの舟木一夫と一緒に70代の2人のどんなセッションが展開されたのか、この目に焼き付けていたかった。
文=渋村 徹 イラスト=山﨑杉夫