24.12.05 update

雨の日に聴きたくなる「レイニーブルー」を歌った徳永英明は、その唯一無二の歌声で女性ヴォーカリストの楽曲をカヴァーし、原曲の魅力をさらに拡げた

 
 気がつくと見かけなくなったものの一つに、「公衆電話」がある。1900年(明治33)に初めて上野駅と新橋駅構内の2カ所に設置され、その翌年には京橋に屋外用の公衆電話ボックスが建てられたという。

 私が上京した80年代には喫茶店やレストランに赤やピンク、黄色といった色鮮やかな公衆電話が必ずあったし、緑の電話機が設置された電話ボックスも至る所にあった。

 10円玉を握りしめ、深呼吸をして電話ボックスに入る。コインを積んでダイヤルを回すと呼び出し音がずいぶん続くのに相手は出ない。通じなかった不安で眠れなくなったこともあった。市内通話なら10円で3分間話せるのだが、旅先から電話をした時などは、あれよあれよという間にコインがカウントされてゆく。映画『男はつらいよ』の寅さんがサクラに度々公衆電話でかけるが、10円玉が足りず途中で切れてしまう。公衆電話にまつわる思い出は、昭和世代ならではのものだろう。
 
因みに公衆電話設置の最盛期は、1984年(昭和59)で約94万台も設置されていたようだ。しかし、85年に携帯電話が登場しその後スマートフォンが普及すると激減の一途である。

 
 つい最近電話ボックスが目に入って来たのは冷たい雨が降る夜のことだった。イチョウの落ち葉が敷き詰められた路上に佇む電話ボックスを見て脳裏に過ったのが徳永英明の「レイニー ブルー」だった。リリースは1986年1月21日で、まさに公衆電話の最盛期に生まれた曲だったのだ。「雨」という天からの贈り物として生まれる物語は、心の琴線に触れる名曲が多い。人それぞれ、世代によっても違いがあるだろうが、レコード会社の「雨の日に聴きたい曲」のランキングで、「レイニーブルー」はかなり上位に入っている。リリースから30年以上経つのに色あせない。電話ボックスの電話機がダイヤル式というのが時代を感じさせるが、ハスキーで優しい独特の声質の徳永が迷う女心をさらっと歌い上げると、その情景が鮮明に浮かび引き込まれてしまう。強い決意で冷たい雨に打たれる主人公の幸福を願わずにいられない。

 
 徳永英明は「レイニー ブルー」で彗星のごとく登場し、端正な顔立ちとスタイルでトレンディドラマにも出演していたと記憶しているが、彼の出発点を改めて知った。

1 2

映画は死なず

新着記事

  • 2024.12.12
    作曲家・筒美京平がオリコン週間1位を初めて獲得した...

    いしだあゆみ「ブルー・ライト・ヨコハマ」

  • 2024.12.09
    リチャード・ギアも出演した黒澤明監督の『八月の狂詩...

    数々の「老女」役で存在感をみせた村瀬幸子

  • 2024.12.09
    泉屋博古館東京「企画展 花器のある風景」観賞券

    応募〆切:1月20日(月)

  • 2024.12.07
    中山美穂さんの大ヒット映画『love Letter...

    中山美穂さんへの河井真也さんの追悼の言葉

  • 2024.12.06
    第19回【私を映画に連れてって!】エミー賞18冠に...

    文=河井真也

  • 2024.12.05
    雨の日に聴きたくなる「レイニーブルー」を歌った徳永...

    徳永英明「レイニーブルー」

  • 2024.12.03
    きわどい熟年女性の性愛表現から母の優しさまでフラン...

    『山逢いのホテルで』見どころ

  • 2024.12.03
    東京ステーションギャラリー「生誕120年 宮脇綾子...

    応募〆切: 1月20日(月)

  • 2024.12.02
    橋幸夫・舟木一夫・西郷輝彦・三田明の青春歌謡四天王...

    松竹青春歌謡映画のヒロイン 尾崎奈々

  • 2024.12.02
    大注目のボートレーサーが集結した「2025年 BO...

    応募〆切:12月20日(金)

特集 special feature 

わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の  「芸業」

特集 わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の 「芸業...

棟方志功の誤解 文=榎本了壱

VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いなる遺産

特集 VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いな...

「逝ける映画人を偲んで2021-2022」文=米谷紳之介

放浪の画家「山下 清の世界」を今。

特集 放浪の画家「山下 清の世界」を今。

「放浪の虫」の因って来たるところ 文=大竹昭子

「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

特集 「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

「いい顔」と「いい顔」が醸す小津映画の後味 文=米谷紳之介

人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

特集 人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

わが母とともに、祐三のパリへ  文=太田治子

ユーミン、半世紀の音楽旅

特集 ユーミン、半世紀の音楽旅

いつもユーミンが流れていた 文=有吉玉青

没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、展覧会「萩原朔太郎大全」の旅 

特集 没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、...

言葉の素顔とは?「萩原朔太郎大全」の試み。文=萩原朔美

喜劇の人 森繁久彌

特集 喜劇の人 森繁久彌

戦後昭和を元気にした<社長シリーズ>と<駅前シリーズ>

映画俳優 三船敏郎

特集 映画俳優 三船敏郎

戦後映画最大のスター〝世界のミフネ〟

「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の流行歌 

昭和歌謡 「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の...

第一弾 天地真理、安達明、久保浩、美樹克彦、あべ静江

故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・木下惠介のこと

特集 故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・...

「つつましく生きる庶民の情感」を映像にした49作品

仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監督の信念

特集 仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監...

「人間の條件」「怪談」「切腹」等全22作の根幹とは

挑戦し続ける劇団四季

特集 挑戦し続ける劇団四季

時代を先取りする日本エンタテインメント界のトップランナー

御存知! 東映時代劇

特集 御存知! 東映時代劇

みんなが拍手を送った勧善懲悪劇 

寅さんがいる風景

特集 寅さんがいる風景

やっぱり庶民のヒーローが懐かしい

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

特集 アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

60年以上にわたる創造の全貌

東京日本橋浜町 明治座

特集 東京日本橋浜町 明治座

江戸薫る 芝居小屋の風情を今に

「芸術座」という血統

特集 「芸術座」という血統

シアタークリエへ

「花椿」の贈り物

特集 「花椿」の贈り物

リッチにスマートに、そしてモダンに

俳優たちの聖地「帝国劇場」

特集 俳優たちの聖地「帝国劇場」

演劇史に残る数々の名作生んだ百年のロマン 文=山川静夫

秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

特集 秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

役柄と素顔のはざまで

秋山庄太郎ポートレートの美学

特集 秋山庄太郎ポートレートの美学

美しきをより美しく

久世光彦のテレビ

特集 久世光彦のテレビ

昭和の匂いを愛し、 テレビと遊んだ男

加山雄三80歳、未だ青春

特集 加山雄三80歳、未だ青春

4年前、初めて人生を激白した若大将

昭和は遠くなりにけり

特集 昭和は遠くなりにけり

北島寛の写真で蘇る団塊世代の子どもたち

西城秀樹 青春のアルバム

特集 西城秀樹 青春のアルバム

スタジアムが似合う男とともに過ごした時間

「舟木一夫」という青春

特集 「舟木一夫」という青春

「高校三年生」から 55年目の「大石内蔵助」へ

川喜多長政 &かしこ映画の青春

特集 川喜多長政 &かしこ映画の青春

国際的映画人のたたずまい

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

特集 ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

監督と女優の二人三脚の映画人生

中原淳一的なる「美」の深遠

特集 中原淳一的なる「美」の深遠

昭和の少女たちを憧れさせた中原淳一の世界

向田邦子の散歩道

特集 向田邦子の散歩道

「昭和の姉」とすごした風景

あの人この人の、生前整理archives

あの人この人の、生前整理archives
読者の声
Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial