事件が解決し、横浜港を歩くトニーと芦川いづみ。トニーが船に乗るのを見送るのだ。トニーの白い航海士の制服がよく似合っている。
芦川「今度の航海はどれくらいかかりますの」
赤木「約4か月です」
芦川「お帰りは冬になりますね」
赤木「でも、僕はもしかすると当分日本には帰りません」
芦川「どうしてですの」
赤木「ケープタウンの友人と一緒に働くつもりです」
芦川「ずいぶん遠いところですのね」
赤木「悪い夢は消してしまいたいんです。浜崎(悪事に手を染めて死んでしまう友人で葉山良二が演じた。吉永小百合はその妹役)のいい面だけが思い出せるようになったら、また戻ってきます」
(中略)
芦川「私もこれから平凡な生活でいいから自分の本当の幸せをつかみたいと思いますの」
赤木「きっといい人に会えますよ。目まぐるしい数日で、哀しいことも多かったけれど、あなたと一緒で楽しい時もありました。最初の霧の晩、ホテルの窓辺で初めてあなたとお会いしたときの霧笛が今でも耳に残っています」
芦川「さよなら」
赤木「ごきげんよう」
と握手して去るトニーの背中を見送る、どこか未練をかかえたまま佇むなんとも切ない表情の芦川。そして何かをふっきったように歩き出す。そこに「きりーのはとばに……」とトニーが歌う主題歌が流れ出す。トニーのどこか不器用な歌い方が、むしろ情感がにじみ心に迫ってくる。裕次郎とも小林旭とも違う魅力的なヒーローだ。
日活撮影所での撮影の昼休み、輸入代理店のセールスマンが持ってきたゴーカートの試乗中の事故だった。その6年前に、やはり自動車事故でジェームズ・ディーンが24歳の若さでこの世を去ったことから、〝和製ジェームズ・ディーン〟と言われた赤木圭一郎。格別仲が良かった宍戸錠は、赤木の死に顔を見て「まるでハリウッド・スターのルドルフ・ヴァレンティノのようだった」と語っている。いずれにしても、〝日本人離れしたムード〟と言われていたことを裏付ける。
俳優としての活躍は約3年と短い期間だったが、30作くらいの映画に出演した。後年、小林旭は「もし、赤木が生きていたら、俺も裕次郎も霞んでいた」とそのスター性を高く評価する発言をしている。また、雑誌の取材で一緒になったことをきっかけに、加山雄三とは日活と東宝という映画会社の垣根を越えて、赤木の死まで親しくしていたという。3年間という限られた俳優人生だったが、流星のような光を遺してくれた赤木圭一郎。死後7年経った68年まで、プロマイド売上は男性部門のベスト10位内に入り続けた。その姿を思い浮かべるとき、BGMには「霧笛が俺を呼んでいる」の歌声が流れている。
今回のイラストは、レコードがリリースされた当時のジャケットではないが、ストローハットをかぶりトニーのムードがよく出ているので、こちらのジャケットを紹介したい。
文=渋村 徹 イラスト=山﨑杉夫