アナログレコードの1分間45回転で、中央の円孔が大きいシングルレコード盤をドーナツ盤と呼んでいた。
昭和の歌謡界では、およそ3か月に1枚の頻度で、人気歌手たちは新曲をリリースしていて、新譜の発売日には、学校帰りなどに必ず近所のレコード店に立ち寄っていた。
お目当ての歌手の名前が記されたインデックスから、一枚ずつレコードをめくっていくのが好きだった。ジャケットを見るのも楽しかった。
1980年代に入り、コンパクトディスク(CD)の開発・普及により、アナログレコードは衰退するが、それでもオリジナル曲への愛着もあり、アナログレコードの愛好者は存在し続けた。
近年、レコード復活の兆しがあり、2021年にはアナログレコード専門店が新規に出店されるなど、レコード人気が再燃している気配がある。
ふと口ずさむ歌は、レコードで聴いていた昔のメロディだ。
ジャケット写真を思い出しながら、「コモレバ・コンピレーション・アルバム」の趣で、懐かしい曲の数々を毎週木曜に1曲ずつご紹介する。
「みなさん、わかりますか? 日本で一番売れたレコード……」と稲垣潤一が客席に問いかけた。夏の終わりの週末、〈よこすか芸術劇場〉で開催された「40th Anniversary 稲垣潤一Concert 2022」の一コマである。
『答えは「およげ!たいやきくん」、1975年、昭和50年の大ヒット曲です』と、稲垣がその頃のことを懐かしく話し出した。そういえば当時、「まいにち、まいにち~」と下校途中で歌うたくさんの小学生を見かけた。朝ドラの「カムカムエヴリバディ」でもそんな場面があったが、回転焼き「大月」の売上げを圧迫したのは「たいやき」だった。
「およげ!たいやきくん」は、フジテレビの子供向け番組「ひらけ!ポンキッキ」から生まれた。「ひらけ!ポンキッキ」は73年4月からフジテレビ系で放送が始まり、番組は20年続いた。75年10月から放送時間が移動し毎朝8時15分~45分、夕方は5時30分~6時に再放送された。「今月の歌」の放送ローテーションが、1曲を1ケ月通して流す方針に変わり、その第一弾が「およげ!たいやきくん」だった。放送開始直後からリクエストが寄せられ、「レコードは買えないのか」という問い合わせが殺到したという。最初にオンエアされたヴァージョンは、フォーク歌手の生田敬太郎が歌ったものだが、生田が他のレコード会社と契約している関係で、12月からは子門真人に代わってオンエアされ、子門真人が歌ったオリジナル盤は1975年12月25日キャニオンレコードからリリースされた。
生田敬太郎ヴァージョンは、ブルース的な要素があったが、子門真人は野太い声でロシア民謡のように歌い上げた。当初は、「なぜ歌手が代わったのか?」「新しい人でレコードを出すんだったら、番組も見ない」という抗議も寄せられたが、あっという間に子門版は市民権を得て、発売から半月で100万枚を突破した。スタッフも、歌手の子門真人も予想もしていない出来事だった。累計460万枚以上の売上げとなり、歴史的な大ヒットを記録。それから時を経て、イギリスのギネス・ワールド・レコーズが出版する『ギネス世界記録2009』に、「日本で最も売れたシングル曲」として掲載された。